運動機能と認知機能の関連性
視覚と手の動きを協調させ、タイミングを計る必要のある活動は、受動的な学習よりも優れた脳のトレーニングになる。
米国神経学会(AAN)が提供する脳の健康を維持するための情報サイト「Brain & Life」のポッドキャストでは、オンラインフィットネス「Peloton(ペロトン)」のインストラクターであるブラッドリー・ローズが32歳で脳卒中を患った後の回復体験を語っている。簡単な記憶力や認識力のテストにさえ合格できなかった状態から、再びフィットネスバイクに乗ってレッスンを指導できるまでに回復した。これは、脳が損傷した場合でも、体系的な練習と粘り強さによって神経回路の再編成が可能なことを示す事例だ。筆者も何度かレッスンを受けたが、ローズは認知回復力の生き証人といっていい。
だからこそ、楽器の習得にせよ、仕事で新しいスキルを身につけるにせよ、怪我をした後のリハビリにせよ、能動的で実践的な学習のほうが、講義や受動的な学習よりもはるかに高い効果を発揮するのだ。従来型の講義における平均的な知識定着率がわずか20%なのに対し、双方向で実践的な手法による定着率は75%にも達する。
仕事で認知機能を鋭く保つには
ここで学ぶべき真の教訓は、研修予算や企業プログラムをどうするかではない。自分がどんな立場にあろうと、精神的な鋭敏さと適応力を維持することである。ヘムズワースのドラム挑戦も、筆者のExoMind実験も同じく、脳は挑戦によって成長するという事実を示している。
それを証明するためにハリウッド俳優を目指す必要はない。79歳のイヴァン・ディアスは、67歳のときに社交ダンスを始めた。「毎晩、何か新しいことを学ぶ。おかげで頭の冴えを保てているよ」と語る。最初は音楽テープをかけ、自然にステップを踏めるようになるまで毎日1時間練習した。今では週に何度かダンスを楽しみ、旅行先でもレッスンを受けるという。新しいルーティンはどれも、協調性、記憶力、リズム感を鍛えるものだ。ディアスもまた、神経可塑性が働いた生きた好例だ。
ヘムズワースがドラムセットに座って見出したものを、ディアスはダンスフロアで発見した。2人とも、新しいことを学び身につけ、とりわけその際に体の動きと集中力が組み合わさることで、年齢を問わず脳の神経回路を強化できることを立証している。
研究結果は繰りかえし同じ真実を裏付けている。すなわち、知性を鍛え続ける人は、衰えが遅くなるだけでなく、より適応力が高まるということだ。そして、現代の仕事場においては、適応力こそが全てである。


