『エリナー・リグビー』とブレインフォグ
筆者はかねて、何をすれば冴えた頭を維持できるのかに興味があった。そこで、集中力と気分の向上を目的に設計されたExoMindという非侵襲的な脳刺激療法を知ったとき、試してみようと考えた。同じ頃、ヘムズワースのドラムチャレンジに触発され、ピアノとギターのどちらかに挑戦してみようと思い立った。コインを投げたところ、出た目はギターだった。
ギターを教えてくれることになったエドは、南カリフォルニア出身の情熱的なミュージシャンだ。日中に教室を開く傍ら、夜は大きなステージから地元のアートイベントの余興で開催されるミニライブまで、さまざまな場で演奏している。4回目のレッスンを終えた筆者は、ヘムズワースとシーランのセッションに招待されるほどではないにしろ、ビートルズの『エリナー・リグビー』やコールドプレイの楽曲をそこそこ弾けるようになった。少なくともリズムを見失うことはもうない。
ギターを弾くにあたって最も気に入っている点は、それに伴う集中力だ。頭が冴え、感覚が研ぎ澄まされる気がする。音のせいかもしれないし、科学的な効果かもしれない。いずれにせよ、脳は新しいことを学んでいる時に最も幸せを感じるようだ。
認知予備力:職業上のセーフティネット
ヘムズワースの挑戦を支えた概念を、認知予備力という。これは英オックスフォード大学の研究で裏付けられた原理で、私たちのキャリア戦略の指針となるべきものでもある。すなわち、加齢に伴う変化や病的損傷に対し、脳に備わった回復力のことだ。生涯を通じてさまざまな挑戦的な活動により蓄積される、精神的な年金基金だと考えるといい。
米ラッシュ大学・記憶と老化プロジェクトなど2700人以上のデータを用いたカリフォルニア大学の研究では、認知活動への参加を含む4~5個の健康的な生活習慣を維持すると、アルツハイマー型認知症のリスクが60%減少することが判明した。予防因子は教育から仕事の複雑性、生涯学習活動まで広範囲に及んだ。オーストラリアの研究結果もこの傾向を裏付けている。調査によれば、オーストラリアでは国民の約半数が脳の健康状態の改善に意欲的で、最も報告の多い健康保護行動は知的活動だった。
しかし、挑戦しがいのある作業と認知機能の保護との重要な関連性については、いまだ認知度が低い。同じ原則は職場にも当てはまる。クロストレーニングや実践的な問題解決は、受動的な指導よりも、強く適応力のあるチームを作り上げる。リアルタイムでの実行・反省・調整を重視するプログラムは、脳が持続的なつながりを形成するのに寄与し、メンバーの積極的な関与を保つ効果がある。


