ハリウッド俳優のクリス・ヘムズワースがドラムを習得しようと奮闘する体験には、仕事において高いパフォーマンスを維持しようと心がけているすべての人にとって大きな学びがある。
Disney+のドキュメンタリーシリーズ『リミットレス with クリス・ヘムズワース』の最新エピソード「Brain Power」で、ヘムズワースはドラム演奏に挑戦する。わずか数カ月で楽器を習得し、緊張と闘いながら7万人の観衆を前にして、シンガーソングライターのエド・シーランと共にステージに立つのだ。
この番組内でヘムズワースが請け負ったのは、単なる挑戦ではない。「頭のキレ」を保つためには何が不可欠なのかを明らかにすることだ。すなわち、スキルアップとは単なる人生やキャリアの保険ではなく、文字通り「脳の保険」なのだということである。
ビートに潜む脳神経科学
ヘムズワースのドラム挑戦の結果は、ただ演奏できるようになったというだけにとどまらない。神経可塑性という、外部からの刺激に応じて脳の神経系が変化・適応し、新しい機能を獲得する能力が鮮やかに働いた実例だ。
「リズムも協調性もなかった」と語るヘムズワースの脳は、全く新しい神経回路をイチから構築しなければならなかった。この「使わなければ失われる」という原理こそが、継続的な学習によって認知機能の低下を防げる理由を裏付けている。
その科学的根拠には説得力がある。私たちの脳は無数の神経細胞で構成されており、膨大な神経回路のネットワークを介して電気信号をやりとりしていることがわかっている。これらの神経接続の一部は加齢に伴って失われるが、新たな接続を構築することで機能を補える。高速道路が閉鎖された時に迂回路を使うようなものだ。
このプロセスを神経可塑性という。生涯を通じて脳が再編成し、新しい経路を形成する能力である。ドラム演奏のように身体的協調性と精神的集中を組み合わせた運動学習は、受動的な精神作業だけでは得られない効果を脳へもたらす。



