世界を変える日本発バイオAI ―がんの早期発見を目指すCraifの挑戦
世界を変える日本発バイオAI ―がんの早期発見を目指すCraifの挑戦

/ ビジネス 2025年11月28日

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世界を変える日本発バイオAI
―がんの早期発見を目指すCraifの挑戦

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がんの予後改善には早期発見が鍵となる。しかし、すい臓がん患者のうち、ステージ1で見つかるのはわずか6%。この現実とどう向き合うべきか。

今、世界では「生体データ×AI」で病気の兆候をとらえる「バイオAI」が注目されている。この新領域にいち早く取り組み、社会実装へと踏み出しているのが、バイオAIスタートアップ Craif(クライフ)だ。昨年ノーベル生理学・医学賞で注目を集めた「マイクロRNA」を尿から抽出し、AIで解析することでがんのシグナルを評価する技術で、日本発の産業化を加速させている。

世界が注目する新たな産業領域“バイオAI”

そもそも、バイオAIとは何か。
それは、独自に生成したバイオデータ(生体情報)をもとに、AIアルゴリズムを構築し、健康や医療に役立てる新たな産業領域を指す。

世界を変える日本発バイオAI ―がんの早期発見を目指すCraifの挑戦

バイオAIは、医療の精度と効率を高める新しい技術だが、その根幹をなす生体データはマーケティング領域といった一般的なデータと異なり、極めて繊細だ。

検体の採取方法や測定環境、患者の年齢・体調などによって結果が大きく左右されやすく、本来の目的と関係のない“ゆらぎ(ノイズ)”や“偏り(バイアス)”が生じやすい。こうした要素を含んだままAIに学習させると、精度や再現性が損なわれてしまう。

精度と再現性をいかに高めるか――その問いに挑む動きが、米国を中心として世界各地で活発化している。

先進的なバイオAI企業の特徴は、高品質なバイオデータを自ら生み出し、AIの学習基盤まで自社で設計する一気通貫の体制をもつ点にある。この“データ生成型”の手法によって、これまで応用が難しかった領域にも活用の道が開かれ、がんの早期発見や個別化医療、疾患予測など、医療の可能性が大きく広がっている。事実、米国では、Recursion PharmaceuticalsやGrailといった企業が数千億円規模の資金調達を実施し、AIに適したデータを自ら設計・生成することで創薬やがん診断技術の実用化を加速させている。

世界を変える日本発バイオAI ―がんの早期発見を目指すCraifの挑戦

がん早期発見に挑むCraifのバイオAI技術

米国を中心に技術開発が進むなか、Craifは独自のアプローチで挑んでいる。同社は「AIに学習させるデータそのものを自ら設計・生成する」ことにこだわっているが、特にユニークなのが、尿に含まれる微量なマイクロRNA(miRNA)という遺伝子の働きを調整する分子に着目している点だ。がん細胞はマイクロRNAを周囲に放出することで成長していくことが明らかになり、がんリスク評価のマーカーとして世界中から注目が集まり、2024年にマイクロRNAの研究者がノーベル賞を受賞した。Craifは、血液よりも取得が容易な尿からマイクロRNAを抽出し、AI解析の融合によって次世代のがん早期リスク評価の実現に取り組んでいる。

世界を変える日本発バイオAI ―がんの早期発見を目指すCraifの挑戦

Craifの強みは、尿中マイクロRNAなどのバイオデータを解析する独自技術「NANO IP®」と、それに最適化されたAIアルゴリズムを自社内で一貫して設計できる体制にある。この技術基盤を活かして、これまでに国内外50以上の研究機関との共同研究を推進。論文や学会報告を含む60件を超える研究成果を発表してきた。

同社が提供するがんリスク評価サービス「マイシグナル」も、「NANO IP®」と「AI技術」を応用した成果である。2025年6月には北海道岩内町で大学、病院、行政と連携し無症状の一般住民を対象にした実証研究も実施した。その結果として、肺がんのステージ0の早期発見に関する成果を公表した。

医療・ライフサイエンス分野のコンサルタントで、アーサー・ディ・リトル・ジャパン プリンシパルの山本洪太(以下、山本)は、Craif独自の解析技術を高く評価している。

世界を変える日本発バイオAI ―がんの早期発見を目指すCraifの挑戦

アーサー・ディ・リトル・ジャパン プリンシパル 山本洪太

「血液などの体液を使ってがんなどの異常を検出する“リキッドバイオプシー”では、血液中のDNAを解析する手法が主流です。しかし、近年は技術への過度な期待が落ち着き、実際にどこまで社会実装できるのか、臨床現場で価値を発揮できるのかが問われる段階に入っています。今後の焦点は、がんなどの早期ステージでどこまで精度を高められるか、そしてその精度をいかに低コストで実現できるかに移っていくでしょう。

そうしたなかでCraifは、尿からマイクロRNAという微小な分子を解析する技術によって、従来の常識に新たな選択肢を提示しています。リキッドバイオプシーの“次の進化”を模索する動きの中で、こうしたアプローチを実現できる日本発の企業は限られており、Craifはグローバル市場で通用するポテンシャルを有する数少ない存在と言えます」(山本)

マイクロRNAは、がん細胞の活動を反映する分子であり、ごく早期の異変を反映するバイオマーカーとして研究が進められており、早期発見への貢献が期待される。さらに、尿を使うことで、採血のような痛みや身体的な負担が少なく、自宅での検査などにも適している。

「早期がんの可能性を評価する精度・低コスト・非侵襲といった次世代のヘルスケア検査に求められる要件の実現は容易なことではありません。Craifは、これらの要素の実現を目指す、注目すべきプレーヤーといえるでしょう」(山本)

Craifは、現在、来年度の薬事承認の申請を予定しており、アカデミア、医療機関、地方自治体、大手企業との連携によって、検査の信頼性向上、適用がん種の拡大、自動化によるスケールアップに取り組み、精度とスピードを高める構えだ。

未来医療への布石
「Bio AI Summit」が示した産業構想

同社はバイオAI領域に特化したカンファレンス「Bio AI Summit 2025」を2025年9月に主催した。日本発の新たな技術カテゴリーとして、バイオAIを世界と戦える産業へと育てていく──その挑戦の第一歩となる試みだ。山本も登壇し、「世界が「バイオAI」に注目する理由」について解説を行った。

本サミットの開催に込めた思いについて、Craif代表取締役CEOの小野瀨隆一は次のように語る。
「これからの医療はもっとタイムリーで、かつ的確であるべきだと考えています。生活習慣病の増加や医療費の高騰は、いまや世界共通の課題です。これまでの医療は症状ベースで行われてきましたが、今後はバイオのデータを取得し、AIで解析することにより、より早期かつ的確な対応が可能になる。バイオAIは、そうした医療の実現に有効な技術だと考えています」(小野瀨)

オープニングセッションでは、「バイオAIで創る未来」をテーマに、Craif創業の経緯や「人々が天寿を全うできる社会の実現」というビジョンと米国拠点の設立と米国市場への挑戦について紹介された。続いて山本がグローバルにおけるバイオAIの最新トレンドを解説し、米国における事例を紹介しながら、「創薬や臨床開発、診断の領域でバイオAIが医療的価値を直接生み出す時代に入っている」ことを改めて強調した。

世界を変える日本発バイオAI ―がんの早期発見を目指すCraifの挑戦
世界を変える日本発バイオAI ―がんの早期発見を目指すCraifの挑戦

左から、サミットに登壇した慶應義塾大学医学部腫瘍センターゲノム医療ユニット特任助教 加藤容崇、経済産業省 ヘルスケア産業課 室長補佐 高山 真澄

その後は産学官の有識者が登壇。
慶應義塾大学医学部腫瘍センターゲノム医療ユニット特任助教 加藤容崇は、尿中のマイクロRNAのAI解析によるすい臓がんの早期発見バイオAI技術について紹介。「従来の腫瘍マーカーでは見つけられなかったすい臓がんの早期段階をとらえる可能性がある」と話し、会場からは驚きの声が挙がった。

別セッションでは、経済産業省 ヘルスケア産業課の高山真澄室長補佐が登壇。医療機器の輸入額が増加する現状を踏まえ、「国内産業の国際競争力を高めるには、イノベーティブな製品開発が不可欠」と述べ、産学官連携による国産技術のグローバル展開に期待を寄せた。

ベンチャーキャピタルファンド、X&KSK Managing Partnerの山本航平は、グローバル投資の視点から「日本の技術が世界で勝つためには、まずは分かりやすい成功事例が必要だ」と説明。欧米に比べ、日本企業が資金調達や海外展開のスピードで後れを取っていることを訴えた。

クロージングセッションでは、再び小野瀨が登壇し、「今後も毎年『Bio AI Summit』を開催し、バイオAIという産業を共に育てる場を継続していきたい」と語った。日本発の新産業を押し上げる継続的な取り組みとしての意義が、来場者にも強く印象づけられた。

Craifが描く10年後の医療と産業のかたち

小野瀨はすでに、世界を見据えた挑戦に踏み出している。
「我々のビジョンは、『人々が天寿を全うできる社会』の実現です。そのために、まずはすい臓がんの早期発見を試みる弊社の技術を米国市場に広げ、28年には米国の公的保険・メディケアでの保険償還を実現したい。そこから他のがん種へと展開し、近い将来、世界中で『バイオAIといえばCraif』と認識されるような存在を目指します」(小野瀨)

世界を変える日本発バイオAI ―がんの早期発見を目指すCraifの挑戦

Craif代表取締役CEO 小野瀨隆一

小野瀨がCraifを立ち上げた背景には、がんで最愛の家族を亡くした経験がある。「同じ悲しみを繰り返させたくない」──その思いが、事業を突き動かす原点となっている。

山本は、Craifのもつポテンシャルに注目している。
「新たな産業を構築するためには、一社単独ではなく、大学や研究機関、医療機関、投資家と連携し、エコシステムを形成していくことが重要になります。Craifは日本発のバイオAI企業として、こうしたエコシステムの形成をリードし、存在感を高めていきうるポジションにあると感じています」(山本)

バイオAIは、単なるテクノロジーのアップデートにとどまらない。人々の健康観や医療制度のあり方、そして社会全体の仕組みにまで影響を及ぼす可能性を秘めた新潮流だ。

「10年後、CraifはバイオAI領域において、世界のトップとして誰もが認知する企業になります」(小野瀨)

「Bio AI Summit 2025」で高らかに宣言されたこの言葉も、これまでの技術的積み重ねと未来を見据えた構想に裏打ちされた、実現可能なビジョンとして響く。「がんによる悲しみを世の中からなくしたい」という思いから始まったCraifの挑戦が、今、日本発のバイオAIによって世界の医療を変えるという未来を、現実のものにしようとしている。

おのせ・りゅういち◎Craif代表取締役CEO

三菱商事を経て2018年にCraifを創業。尿中マイクロRNA解析とAIを融合した「バイオAI」で、がんの早期発見に挑む。

やまもと・こうた◎アーサー・ディ・リトル・ジャパン プリンシパル

アストラゼネカ、中外製薬などを経て現職。製薬・バイオテック産業を中心に戦略策定や新規事業開発支援を行う。

promoted by Craiftext by Motoki Honmaphotographs by Daichi Saitoedited by Aya Ohtou(CRAING)

*本検査(マイシグナル)は、がんの診断を確定するものではなく、がんの早期発見を保証するものではありません。
*本検査は、医師の診断や従来の検査に代わるものではありません。検査結果に関わらず、気になる症状がある場合は医療機関にご相談ください。
*本検査は、現時点では薬事承認を取得しておらず、自由診療(または研究目的)として提供されています。