オーストラリア・南オーストラリア州の都市アデレードの人工知能(AI)研究チームが、独自に開発した宇宙技術を利用して、無人軌道周回探査機による月面調査の方法を革命的に変えることを目指している。
この革新的なAI新技術は、第一段階では月面調査への利用だが、実際にはあらゆる惑星表面の調査に応用できる可能性がある。過去に地図化されたカタログのデータがあれば、それを基準点として利用できるのだ。
専門誌Astrodynamicsに掲載が受理された、今回の研究をまとめた論文では、研究チームが開発した位置測定技術「STELLA(Spacecraft craTer-basEd Localisation for Lunar mApping、月面マッピングのためのクレーターに基づく探査機位置測定)」を紹介している。STELLAは月面地図化のための長期探査計画に適合した、衝突クレーターに基づく画期的なAI活用型航行パイプライン処理技術だ。
アデレード大学のAI for Space研究グループとアンディ・トーマス宇宙資源研究所に所属する博士課程修了研究者のソフィア・マクロードは、取材に応じた電子メールで、宇宙空間ではGPSのような衛星測位システムがないため、探査機は独自の方法で現在位置を測定する必要があると指摘している。電波測距などの様々な位置決定方法があるが、これらは数kmの誤差が生じる可能性があるという。
一方、クレーターベース航法(CBN)は視覚に基づく進路決定技術で、クレーターのある月面の画像を用いて探査機の位置を決定する。
マクロードと研究チームが論文で実証しているように、STELLAは従来の月面探査方法に比べてはるかに高い精度を達成できることが明らかになっている。
どのように機能するか
探査機に搭載のカメラが月面の画像を撮影すると、CBNが画像に写ったクレーターを検出し、既存のクレーターカタログに載っている既知のクレーターとマッチングを行う。このマッチング結果から探査機の位置を特定すると、マクロードは説明する。このプロセスは純粋に位置推定が目的であり、CBNは新しい地図を作成するのではなく、クレーターを目印にして探査機の現在位置を割り出すだけだという。
必須のカタログ
クレーターカタログは、クレーターに基づく航法システムのCBNに欠かせない。CBNは探査機のカメラで撮影した月面の画像から自動的にクレーターを検出し、カタログのクレーターとマッチングを行うからだ。
視認可能なクレーターの必要性
マクロードによると、このシステムはクレーターがなかったり完全に陰になったりしている領域では、撮影した月面の画像だけからでは位置の推定値は得られない。だが、STELLAは月の(極域と大型クレーターを含む)全ての地域で機能させることが可能という。月周回探査機の場合、STELLAは陰の領域に入る前と後に撮影された画像を用いて生成した位置推定値を用いて、探査機の軌道経路を推定することができると、マクロードは続ける。
これは、月の南極に見られるような永久影の領域の上空を通過中でも、周回探査機が月面の位置を推定できることを意味する。
長期の月周回探査計画のために設計された、視覚ベースの探査機航法システムに関する初の包括的研究を今回の論文は提示していると、マクロードは述べている。




