アート

2025.11.29 14:00

カルティエ現代美術財団が新拠点で見せる「空間・光・思考」の融合

パリ・パレロワイヤル広場へ移転したカルティエ現代美術財団(Photo by Luc Castel/Getty Images)

パリ・パレロワイヤル広場へ移転したカルティエ現代美術財団(Photo by Luc Castel/Getty Images)

ルールブル美術館で「世紀の強盗事件」とも呼ばれる宝飾品の窃盗事件が起こり、フランスの首都に波紋が広がった2025年10月下旬、そのパリのカルチャーシーンではもうひとつ、大きな話題となる出来事があった。

それは、プリツカー賞受賞者でもある建築家のジャン・ヌーヴェルが手掛けたカルティエ現代美術財団の新たな拠点が、ルーブル美術館に隣接する広場、パレ・ロワイヤル2番地にオープンしたこと、それを記念する「エクスポジション ジェネラル」展が開幕したことだ。

ラスパイユ大通りにある緑に囲まれた拠点から、19世紀の政治家ジョルジュ・オスマンが皇帝ナポレオン3世とともに改造したパリ市街中心部への果敢ともいえる移転は、財団にとっては単なる住所の変更ではない。かつて、19世紀以前からあった建物を改装して開業した「ルーブル百貨店」の建物の一部を、現代アートと建築の「聖堂」につくり変えたのだ。

外壁をガラス張りにしたその新館で開催されている初回の展覧会では、財団が40年にわたって収集してきた約600点の作品が披露されている。それは、これまでの財団の活動の総括であり、声明でもある。そして、建築と芸術、自然と都市それぞれが持つ特性の対話を再現するものでもある。

過去と現在の対話

ガラス張りの鋼構造の旧館を1994年に完成させたヌーヴェルの設計は、この新館ではさらに介入を控えながらも、より急進的になっている。つまり、古さと新しさのパリンプセスト(多層性)を表現している。

オスマニアン様式の建物のファサードをそのまま残す一方で、その奥に巨大な窓を設置。光あふれる空間を作り出し、その中に高さを変えることができる可動式のプラットフォームを設置した。

そのプラットフォームの完成に協力したのは、イタリアのデザインユニット、Formafantasma(フォルマファンタズマ)だ。従来の美術館の展示空間のように、年代順やテーマ別に作品を鑑賞するのではなく、縦横に自由に移動しながら、インスタレーションや素描・絵画、写真、彫刻といった作品を見て回ることができるようになっている。

また、ヌーヴェルが(ガラスを多用することで)もたらした透過性によって、この施設はそれ自体が、外に目を向けさせるものになっている。内部からは、パリの街の風景がまるで展示の一部のように見える。ガラス越しに見えるパレ・ロワイヤル庭園やルーブル美術、その向こう側に広がる景色は、まるで額縁に入れた作品のようだ。

ヌーヴェルはかねて、建築物は「内にこもるのではなく、都市との対話を引き起こすものであるべきだ」と主張してきた。この新館では、活発に行われているその対話を感じることができる。

パリのパレ・ロワイヤル広場で開催中の展覧会「エクスポジション ジェネラル」展の様子(Photo by Mohamad Salaheldin Abdelg Alsayed/Anadolu via Getty Images)
パリのパレ・ロワイヤル広場で開催中の展覧会「エクスポジション ジェネラル」展の様子(Photo by Mohamad Salaheldin Abdelg Alsayed/Anadolu via Getty Images)
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編集=木内涼子

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