アート

2025.11.29 14:00

カルティエ現代美術財団が新拠点で見せる「空間・光・思考」の融合

パリ・パレロワイヤル広場へ移転したカルティエ現代美術財団(Photo by Luc Castel/Getty Images)

デルコンは新館について、作品を鑑賞するための「装置」だと述べている。そのとおり、ガラス張りの外壁は建物が面している通りを歩く人たちにも、建物内の中二階の通路を歩く人にも、作品を見る複数の視点を提供し、「動き」を認知の一部にしている。

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また、フォルマファンタズマのシモーネ・ファルネーゼは新館のオープン前のプレスプレビューで、この建物についてこう説明している。

「難しかったのは、(展示スペースに)明確な順路がないということです。この建物のセノグラフィー(空間を創造するデザイン)において、来場者にそれぞれのいる場所を知らせる役割を担うのは、照明です」

「この建物はそれ自体が、非常に開放的です。それ自体が展示されているようなものです。ですから、そのことを活かしたいと考えました」

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ラスパイユ大通りにある旧館もまた、透過性の点で革新的なものだった。この新館は、「解釈を大きく変えること」において革新的だ。パリの歴史的建造物にも、芸術作品の展示に関する最も進歩的なアイデアを取り入れることは可能だということを証明している。建築とセノグラフィーが劇場のような雰囲気を生み出し、それらはさらにこの建物を、空間と光、そして思考の「真の融合」を実現した数少ない美術館にしている。

「エクスポジション ジェネラル」展の様子(Photo by Luc Castel/Getty Images)
「エクスポジション ジェネラル」展の様子(Photo by Luc Castel/Getty Images)

新たなランドマーク

通りを隔てた向かい側にあり、作品を年代順、国別に展示し、記念碑のような歴史的価値を持つルーブル美術館が芸術の規範を象徴するものだとすれば、流動的で世界的、さらには意図的に階層構造を排したカルティエ財団の新拠点は、それとは対照を成す。歴史を追って直線的に作品を紹介する流れを拒絶し、それらがスパイラル状につながり合う関係性を重視した。

この展覧会は訪れる人たちに、作品をあがめるのではなく、それらについて疑問を持つこと、相互参照すること、そして考え直すことを促している。

新館の透過性はまさに、開放の精神を体現している。ギャラリーに展示された作品は、周辺の通りからも見ることができる。内部には安心感を与えるような自然光が差し込んでいる。美術館は誰にも邪魔されない静かな場所というよりも、市民の活動の場のようになっている。その一方で同時に、「頭脳労働を要する現代アートは、誰にでもアクセスしやすいものにもなり得るのか」という大きな疑問を投げかけている。

それでもこの新館は、急進的な思想は街の歴史的中心部においても、その強みを失わずにいられるということを証明している。「エクスポジション ジェネラル」が終了するまでに、何万人もの人々がこの建物を訪れるだろう。そして、それは私的財団の定義を変えることにもなるだろう。

ヌーヴェルの建築、クアローニとグルニエのキュレーション、フォルマファンタズマが完成させた舞台、そしてデルコンのビジョンは融合し、単なる美術館にとどまることのない、見て、感じて、考えるための新たな装置を生み出している。

カルティエ財団の新たな拠点は、透過性と包括性、そして永遠に生き続ける未来の記念碑として、過去の記念碑が密集する街に建てられた。デルコンは、建築はひと言で言えば「制約の統制」だと語る。ヌーヴェルが手掛けた新たな建築物は、文化的、社会的な交流を促し、パリを芸術の国際的エコシステムの一部に組み込んでいくだろう。

「エクスポジション ジェネラル」展の会期は2026年8月23日まで。展覧会の詳しい内容は、財団のホームページで紹介されている。

forbes.com 原文

編集=木内涼子

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