マウスの脳の大脳皮質全体を、そっくりそのままスーパーコンピューター上の仮想空間に再現し、ニューロンやシナプスの動きをリアルタイムで観察できるモデルの構築に成功した。これを使えば、特定の脳波がどのように作られるのか、脳の疾患では何が起きているのかなど、これまで仮説でしかなかった問題を実際に観察できるようになり、「脳研究に新たな道をひらく」という。
これは、アメリカのアレン脳科学研究所が開発したオープンソースの神経回路のモデリングとシミュレーションのためのツールキット「Brain Modeling ToolKit」を使い、同研究所のデータを大脳皮質のデジタルシミュレーションに変換したものだ。さらにこれをもとに、電気通信大学の生物物理学的神経回路シミュレーター「Neulite」により、「生きた細胞さながら」に機能する仮想ニューロンが作られた。
理論的には可能とされていたが、マウスの小さな脳でも、その大脳皮質は、神経細胞のニューロン約1000万個、神経接続部のシナプスは260億個、さらに相互に接続された86の脳領域があり、これを実現するには富岳の計算能力が必要だった。ちなみに富岳は、1秒間に40京回以上の演算能力があるとされている。1秒にひとつずつ数を数えていくと、40京に達するには127億年かかるそうだ。

この大脳皮質モデルを観察することは、「まるで生物学的に活動をリアルタイムで見ているかのよう」であり、「ニューロンから伸びる樹状突起、シナプスの活動、そして細胞膜を行き交う電気信号の変動にいたるまで、脳細胞の実際の構造と振る舞いが捉えられています」ということだ。
将来的には、人間の脳全体のモデル化も可能とのこと。そうなれば、アルツハイマーなどの脳の疾患の治療や、人の意識のメカニズムの解明が飛躍的に進むことだろう。それは、「もはやSFの話ではありません」とアレン脳科学研究所は話している。


