先行する米中と、誘致を目指す自治体に求められる規制緩和
米国と中国が“最初の導入国”になったのは、決して偶然ではない。米国の中でも、テキサス、アリゾナ、フロリダのように規制環境がロボタクシーに友好的な州が最初に選ばれた。カリフォルニアも比較的協力的ではあるが、テキサスやアリゾナほどではない。ただし、カリフォルニアにはウェイモ、クルーズ、ズークス、そしてかつてはテスラなど主要企業が拠点を置き、“国家を除けば世界で最も富裕な地域”でもあるという事情がある。欧州については、規制が極めて複雑な“迷路”のような状況にあり、導入は容易ではない。それでも、自国市場での展開を重視する欧州勢は、あえてその難しい領域に挑もうとしている。
筆者は、都市や地域の担当者から、「どうすればロボタクシー企業を誘致できるのか」とよく尋ねられる。しかし現状では、有力なロボタクシーチームに対して同じ質問を投げかけている地域が世界中に存在する。企業側の優先順位を変えてもらうのは簡単ではない。とはいえ、規制上のハードルを取り除き、企業がテストを行い、研究開発の計画上で重要な学びを得られる環境を用意できれば、誘致の可能性は高まる。
「すべての場所へ同時に」は困難、テスラも直面する学習とリソースの課題
ロボタクシーが、すべての場所へ“同時に”進出する──そんな展開は起きない。仮に、ほぼどんな道路でも走れるロボタクシーを開発できたとしても、それは「1度も試走していない道路で、顧客の生命を預かれる」と認定できることとはまったく別の話だ。十分な対話を積み重ねていない地域の規制当局への対応も同様だ。
ロボタクシーのサービス地域の拡大は、ウーバーを新都市に導入するよりはるかに作業量が多く、しかもウーバーでさえ、その導入は想定していた以上に難しかった。ロボタクシーの車両群を整備するには、大量のマネジメント工数、採用、そして資本が必要になる。テスラが構想している、“一般ユーザーが自分のテスラ車をウーバーのようなネットワークに貸し出す”という計画も、多くの課題を抱えている。
テスラは、オーナーが自身で所有するテスラ車であらゆる道路を走行し、そのデータの一部をアップロードすることで、高い汎用性を手にしてきた。しかし、それでも十分ではない。同社は最近、カリフォルニアで安全ドライバーを同乗させた「非自律型ロボタクシー」を1000台導入すると発表した。これは収益を目的にした取り組みではなく、学習のためだ。その実現には、プロの安全ドライバーが必要であり、その学習コストを“市場価格より低い運賃”を支払う乗客が一部肩代わりする形になる。複雑な乗降や、介入の精密な記録といった場面では、ロボタクシーや社員が運転する車両のほうが、一般オーナーの走行データよりもはるかに多くの情報を提供できる。
それでも、希望を持つべき状況になりつつある。ウェイモが急速にサービス範囲を広げている事実は、同社が“純粋な研究開発フェーズ”から“スケール段階”へ進む準備が整ったことを示している。テスラは、まずは本格的に機能するロボタクシーを完成させ、自動車メーカーとしての地位を活かし、一気に拡大することを目指している。
米国外では、中国勢が米国市場に参入できない事情があるため、勝機のある地域へ積極的に乗り込もうとするだろう。企業各社は、可能なかぎり早く、利用者の街へ進出したいと考えている。一方で、人口の少ない地方では長い待ち時間が避けられない。タクシーサービスや自家用車の代替としてロボタクシーを成立させることが、地方では非常に難しいからだ。それでも、街の道路に注意していれば、変化の兆しが見えてくるはずだ。
ロボタクシー網が切り拓く、「個人用ロボカー」実現の未来
では、「自分専用のロボカー」を手に入れる未来は来るのだろうか? これはロボタクシーよりも難易度が高いが、Tensorのように高級市場を狙って開発を進めている企業もあり、テスラも当初から個人向けロボカーを目指してきた。ウェイモとトヨタも、最終的には個人向け車両の提供を目指して提携している。すでにロボタクシーを展開している街であれば、企業がその街向けに走行できる車を作るのはそこまで難しくない。しかし、ロボタクシーのサービスが存在しない街向けに個人向けロボカーを提供するには、膨大な作業が必要になる。しかも、その街でその特定の車を購入する限られた人々しか利用者がいないため、得られるリターンは小さい。
もっとも、個人向けロボカーは高速道路網や、多くの都市の主要幹線道路を走れるようになる見込みがある。ただ、ロボタクシーサービスが存在しない街では、こまかな生活道路などで引き続き自分で運転する必要があるだろう。それでも、このレベルの自動運転はかなり価値があり、比較的早い時期に実現する可能性が高い。
メルセデスは現在、カリフォルニア州とネバダ州の高速道路を自動走行できる車を販売している。当初は渋滞時に限られていたが、現在は“トラックの後ろを時速50マイルで追従する場合に限り、右車線のみ”という条件付きで走行できる段階にまで進んだ。1つの大きな前進であることは確かだ。


