モビリティ

2025.11.23 11:00

ロボタクシーが「あなたの街」に来るのはいつか? 市場拡大の課題

米国オースティンの路上を走行するWaymoのロボタクシー(Photo by Jakub Porzycki/NurPhoto via Getty Images)

利益は二の次、先行投資で新たな市場支配を狙うフェーズ

もっとも現状では、どの企業もロボタクシー事業で利益を上げておらず、しばらくは黒字化を見込んでいない。研究開発費などの非営業コストが非常に大きいため、今はまだ、費用や収益を細かく気にする段階ではない。実際、どの企業も最終的にどのような料金体系にするかをまだ決めておらず、現段階ではウーバー型のタクシー料金を当面の基準としているにすぎない。ただしウーバー以外の企業は、この料金モデルを長期的に続けるつもりはない。

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各社が狙うのは、既存の仕組みを変え、新しい用途や市場を生み出す独自の料金モデルだ。世界の配車市場(ウーバー型市場)は魅力的ではあるものの、ロボタクシーに必要な巨額投資を正当化できる規模には達していない。

自家用車の代替へ、「所有コスト」に勝てる価格設定が不可欠

そんな中、ロボタクシー企業が目指すのは、利用者に「自分が所有する車を手放し、その車が担っていた役割の大半をロボタクシーで代替してもらう」という「自家用車の代替」の市場だ。これは、都市部の密集地に住む人々や、行動範囲が比較的狭い人ほど実現しやすい。ただし、多くの場合は、人間が運転するライドサービス、カーシェア、レンタカー、公共交通機関と組み合わせる必要がある。

しかし、ウーバー型の1マイル2〜3ドル(約314~471円。1ドル=157円換算)という料金設定では成立しない。自家用車の年間走行距離が1万マイル(約1万6000キロ)前後、あるいはそれ以上の利用者にとって、車の所有コストは1マイルあたり50〜70セント(約79~110円)程度にとどまるからだ。

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ガソリン代しか見ない利用者が抱く、「心理的コスト」の壁

また、仮にロボタクシーの料金を、この「車の所有コスト」と同程度に抑えたとしても、利用者は簡単には受け入れない。人々は、自家用車で移動するコストをエネルギー代(ガソリンや電気代)のみと捉えがちで、減価償却や保険、整備費などを費用として認識していないからだ。

たとえば、シリコンバレーからサンフランシスコまでの往復100マイルの移動では、多くのドライバーは主要なコストは15ドル(約2355円)のガソリン代(あるいは4ドル[約628円]の電力代)と考えがちで、実際には減価償却を含めた総額が70ドル(約1.1万円)に達することを意識しない。もしパーティーや食事に出かけるためだけに、この70ドル(約1.1万円。ウーバーなら200ドル[約3.1万円]近く)を支払うよう求められたら、多くの人は受け入れ難いと感じるだろう。

そのため、自家用車のように日常的に使われ、同じような満足感を得られるロボタクシーサービスを実現するには、「利用者が喜んで使える水準」に料金を設定しつつ、事業としての収益も確保しなければならない。

収益よりも学習を優先し、あえて「難所」に挑む戦略

企業がロボタクシーのサービス範囲を拡大する理由はいくつかある。その1つは、研究開発(R&D)を進め、将来的に重要になる市場や戦略について学ぶためだ。もう1つは、競合よりも先に参入して優位性を確立し、重要な地域でブランドと関係性を築くため。そして最終的には、収益を得ることが目的になる。

もっとも、現時点ではどの企業も「収益段階」より「学習段階」の色合いが濃い。各社はまず、フェニックスのように条件が整っている地域でテストを行ったが、将来的に大きな市場になるには、雪が降る地域、複雑で混雑した大都市、政府の対応が厳しい地域でも走れるようになる必要があることを理解している。そのため、今後の成長が見込まれる新しいタイプの地域に、あえて挑戦するチームもある。ただし、同時に複数の問題を抱えることは避け、まず1つずつ確実に対処していく方針を取る。

ウェイモはすでに、雪が多いデトロイトや、極めて複雑な道路環境のニューヨークやロンドンでのオペレーションに取り組んでいる。ロンドンや東京では左側通行が求められるほか、国によって異なる規制や世論への対応についても学ぶことになる。

どの企業も全地域に同時展開することは不可能である以上、“手つかずの領域”に最初に入りたいという動機も働く。「競争するより先に入って独占したい」という発想だ。とはいえニューヨーク、ロンドン、サンフランシスコ、東京といった“最重要拠点”は、どの企業にとっても譲れないため、そこでの競争は避けられない。

一方で、需要があまり見込めない地域も存在する。自家用車の保有率が高く、駐車も無料という郊外では、タクシーやウーバーの利用が少なく、ロボタクシーの需要も限定的になる。ロボタクシーが自家用車の代替として成立するには、価格競争力が不可欠だからだ。しかし、都市部で自家用車の代替を狙うのであれば、最終的には都市周辺の郊外も含めた広い範囲をカバーしなければならない。

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翻訳=上田裕資

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