テスラCEOのイーロン・マスクは、ロボタクシー(自動運転タクシー)専用車両の「サイバーキャブ」の生産を2026年4月に開始すると主張している。しかし、テスラはこの車両の販売に必要な安全基準の適用除外を取得しておらず、申請すらしていない。
テスラが完全自動運転のロボタクシー専用車両「サイバーキャブ」の価格と生産時期を発表
テスラの年次株主総会で、前例のない1兆ドル(約157兆円。1ドル=157円換算)規模の報酬パッケージについて株主の承認を得た数分後、マスクは歓声を上げる投資家や取締役に迎えられ、オースティン工場のステージに上がった。そこで彼は、今後数年間の計画を示したが、その中心に据えたのが、完全自動運転のロボタクシー専用車両「サイバーキャブ」だ。この車両は、テスラが世界の自動運転市場で主導権を握るための切り札だ。
マスクによれば、サイバーキャブは、同社の主力であるモデルYやモデル3、販売目標台数が大幅な未達となっているサイバートラックとも異なり、運転操作系を持たない「完全自動運転車」としてのみ販売される計画だ。価格は3万ドル(約471万円)未満に設定され、テスラで最も手頃なモデルになるという。そしてマスクは、同車が「まもなく市場に投入される」と語った。
「我々は、監視なしで完全自動運転が可能な、初めてロボタクシー専用として設計された車を手にした。それがサイバーキャブだ。ペダルもハンドルもなく、サイドミラーすらない」と彼は述べた。「生産はこの工場で行われる。来年4月に生産開始予定だ」。
現行の安全基準はハンドルやミラーを義務づけており、サイバーキャブは公道を走れない
しかし、テスラが本当に安全に自動運転できる車を販売できる状態にあるのかについては、議論の余地がある。実際、米道路交通安全局(NHTSA)は、事故報告が相次いだことを受け、テスラの「フル・セルフドライビング(FSD)」システムの大規模な調査を進めている。また、それをさておくとしても、同社は“自滅的な失策”に向かって突き進んでいるように見える。現時点では、乗用車にミラーやペダル、ハンドル、フロントガラス、ワイパーなどの装備を義務づける連邦安全基準に、この車は適合しない。自動運転車向けに、これらを使わないことを前提にした基準の改定が進んでいるものの、マスクが掲げた発売時期までに施行される見通しはない。
米国で自動車メーカーが車両に装備すべき機器の種類を定めているのは「連邦自動車安全基準(FMVSS)」で、その運用を担うのがNHTSAだ。ショーン・ダフィー運輸長官は自動運転車向けに基準の見直し案を出しているが、改定が確定するのは当分先になる。



