「手頃な価格」の教育提供を目指し事業を統合、対照的な経歴を持つ2人の創業者の出会い
同社は2020年、工学系や医科大学の入試向けの試験対策講座の提供から事業をスタートさせた。物理を教えるYouTubeチャンネル「Physics Wallah–Alakh Pandey」を運営していたパンデイと、独自の電子学習アプリ「PenPencil」を手がけていたブーブが手を組み、手頃な価格で教育を提供したいという共通の思いから双方の事業を統合した。
同社は2022年に90億ルピー(約158億円)、2024年に186億ルピー(約327億円)の資金調達を実施し、米国の著名ベンチャーキャピタル(VC)のウェストブリッジ・キャピタル、ライトスピード・ベンチャー・パートナーズなどの投資を呼び込んだ。
工学系大学を3年次で中退したパンデイは、2014年から無料の物理講座を提供するYouTubeチャンネルを開始し、現在の登録者数は1400万人近くに達している。彼はインド北部ウッタル・プラデーシュ州の小さな町プラヤーグラジで育ち、中学2年生にして小学4年生や5年生の子どもを相手に家庭教師サービスを始めていた。彼は授業にミームやジョーク、タトゥーまで持ち込み、独特の教え方で“カルト的”ともいえる支持を集めた。パンデイは、自身の両手にアルベルト・アインシュタインの顔や円周率の記号などのタトゥーを入れている。
一方ブーブは、インド工科大学バナーラス・ヒンドゥー大学校(IIT-BHU)で機械工学のB.Techを取得している。Physicswallahでは戦略面を統括しイノベーションを主導する立場だ。
過去の失敗事例とは一線を画す、堅実な戦略と現実的な評価額が投資家を惹きつける
パンデイが人気講師であることは、成功の保証を示すわけではない。その典型が、かつて“エドテックのビリオネア”と呼ばれたバイジュ・ラヴェーンドランだ。ラヴェーンドランは、教育アプリ企業「Byju’s(バイジュ)」を立ち上げ、難解な数学を理解させるための独特の教え方で知られたが、同社は急速に規模を拡大しすぎ、現在は裁判所の管理下で資産売却を進めている。
インドの教育分野では、過剰に持ち上げられ、過大評価された末に崩壊した企業は多い。Educomp(エデュコンプ)やEveronn(エヴェロン)、Edserv Softsystems(エドサーブ・ソフトシステムズ)、Core Education & Technologies(コア・エデュケーション&テクノロジーズ)といった上場企業がその代表だ。
たとえば、Everonnは2007年のIPOで募集枠に対して145倍の応募が集まった。しかし、こうした企業は拡大のために抱えた債務に耐えられず、10年ほど前に軒並み破綻した。
その“第二波”として、Byju’sやオンライン学習アプリUnacademy(アナカデミー)などのエドテック企業が登場し、高い評価額を獲得した。しかし、Byju’sの評価額は2022年に220億ドル(約3.4兆円)というピークに達した後、一気に失速した。Unacademyの評価額も2021年の34億ドル(約530億円)の10分の1に落ち込んだと報じられている。
一方Physicswallahは、現時点の期待に応える潜在力があるとアナリストは指摘する。そのアナリストとは、デジタルコンサルティング・投資会社5F Worldの会長ガネーシュ・ナタラジャンだ。「Physicswallahの成長ぶりと創業者の的確な戦略を見るかぎり、この評価額は非合理的な熱狂ではなく現実的なものだと感じている」という。「彼らはオフライン拠点のネットワークとオンライン戦略を組み合わせた、堅実なビジネスモデルをとっている」と指摘した。


