経営・戦略

2025.11.27 17:30

5年前の破産からどう復活? 米衣料品「Jクルー」をAIで再生した最高情報責任者(CIO)

Photo by Smith Collection/Gado/Getty Images

アプリとAI活用で顧客体験を刷新し、オンラインと店舗をつなぎ関与率を倍増させる

シュメルキンは、顧客の目に触れる領域でもテクノロジー改革を進めてきた。彼女は、J.CrewとMadewell向けに新たなモバイルアプリを導入し、ブラウズから購入までをスマートフォンで完結できるようにした。ウェブサイトでは、閲覧履歴や購買履歴に基づいて商品を提案するAI搭載のカスタマイズ機能を実装した。これら施策によって、オンラインでのエンゲージメントは1年で11%から25%へと大きく伸びた。

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シュメルキンは、このエンゲージメントを実店舗にも広げ、販売スタッフが顧客プロファイル(購買履歴やお気に入りリストなどを含む)を閲覧し、それをもとに一人ひとりに合わせた接客ができるiOSアプリを導入した。「オンラインとオフラインの顧客体験をつなぎ、スタイリストにこれまで見えていなかった情報を与えることで、以前とは比べものにならない提案ができるようになった」と彼女は語る。

顧客に見えない技術こそが再生の鍵、対話型AIで現場スタッフの判断を支援

だが実は、J.Crewの再生で最も大きな効果を生んでいるのは、顧客の目に触れないところにあるテクノロジーだ。

同社では長年、「純売上高」や「コンバージョン率」といった指標に不慣れな販売スタッフにとって販売データが把握しにくい状況にあった。そこでシュメルキンは、社員が一般的な言葉で自然に質問できるAIチャットボットを導入した。たとえば、「五番街店ではタートルネックの売れ行きはどうだった?」や「今年のセレブ起用キャンペーンの効果は昨年と比べてどうだった?」といった具合に尋ねられるようにした。

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シュメルキンのチームはまた、オンラインと実店舗の双方の注文管理と流通の仕組みの構築を担っている。実店舗向けには、在庫管理に伴う手作業を削減する仕組みを導入した。店舗ごとの在庫状況をAIが予測し、各店に最適な補充パターンを算出するモデルを構築したことで、これまでスタッフが手作業で追いかけ、分析しなければならなかった入出庫管理の負担が大きく軽減された。

地域の検索データを在庫計画に即座に反映し、実店舗の補充プロセスを収益を生む柱に変える

シュメルキンは、実店舗の補充プロセス自体を「収益を生む仕組み」に進化させた。各店舗のジップコード(郵便番号)と周辺地域での検索履歴を追跡し、そのデータを在庫計画に反映させるようにしたのだ。たとえば、ある店舗の近隣での「アウター」に関する検索が多いのにもかかわらず、店舗でのアウターの在庫が十分ではない場合、即座に商品を補充する。

「店舗の実績だけではなく、その周辺の広いシグナルまでを読み取れるようになったことで、非常に大きな効果が生まれている」と彼女は語る。

IT部門・UX/UI・データサイエンス・AIラボを統括、不透明な市場環境と将来の課題に挑む

シュメルキンは伝統的なIT部門に加えて、デジタルデザインを担うUX/UIチームやデータサイエンスチーム、そして「Second Thread(セカンド・スレッド)」と呼ばれる社内のAIラボを率いている。このAIラボは、顧客と直接接点を持つ領域からバックエンド業務までをカバーする、全社のAI導入と実装を担う拠点となっている。

今後についてシュメルキンは、競合の増加やマクロ経済の不透明感といった避けられない課題があっても、J.Crewがテクノロジーを活用し続けることで、自社の商品と顧客体験を「パーソナライズされた、創造的なもの」へと進化させられると考えている。

forbes.com 原文

翻訳=上田裕資

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