世界の大手AI企業が、急成長するアジアAI市場で拠点選びと投資競争を繰り広げている。ChatGPTのOpenAIやAnthropic、エヌビディアが支援するCohere(コヒア)などは、それぞれシンガポール、日本、韓国をアジアでの主要拠点に据えつつある。
こうした動きが広がる中で、OpenAIに出資する人工知能(AI)分野特化のベンチャーキャピタル(VC)、Alpha Intelligence Capital(アルファ・インテリジェンス・キャピタル)の共同創業者アントワーヌ・ブロンドーは、この地域のAI拠点を牽引する存在としてシンガポール、韓国、台湾、インドの4カ国を挙げる。本稿では、これら4カ国が人材、ロボティクス、半導体、アウトソーシングの分野で果たす役割を紹介する。
シンガポール──AI人材と多国籍企業が集中するアジアの有力拠点と断言
OpenAI出資元の1社、Alpha Intelligence Capitalのアントワーヌ・ブロンドーは、シンガポール、韓国、台湾、インドがアジアのAIの未来を牽引すると主張している。
ここ数年、世界の主要AI企業は、自社のAIツールの利用が急増するアジアでの事業を拡大してきたが、アジアのどこに拠点を置くかについての判断は割れている。OpenAIはシンガポールを選び、Anthropicは日本を選択し、エヌビディアが支援するCohereは韓国を拠点とした。
こうした中ブロンドーは、シンガポールが最有力だと断言する。ルクセンブルクに本拠を置く同社は、すでにシンガポールのスタートアップ2社──AIアート生成のPixAI(ピックスAI)と半導体の欠陥解析ツールを手がけるSixsense(シックスセンス)──に投資しており、現在はまだ社名が非公開の3社目の投資を最終調整中という。
Alpha Intelligence Capitalは、これ以外にもサンフランシスコのAI動画モデル開発企業Higgsfield(ヒッグスフィールド)、シドニーのAIナビゲーション企業Advanced Navigation(アドバンスト・ナビゲーション)、テルアビブ拠点のAI医療画像企業Aidoc(エイドック)、ロンドンのAI活用サイバー保険企業Envelop(エンベロップ)などに出資している。
また、同社のエグジット案件には、香港で2021年に上場した中国のAI大手SenseTime(センスタイム)や、2023年にBioNTechが6億8000万ドル(約1068億円。1ドル=157円換算)で買収した英国のAIサービス企業InstaDeep(インスタディープ)が含まれる。Alpha Intelligence Capitalは2018年の設立以来、2つのファンドで累計約5億ドル(約785億円)を調達した。
中国本土からもインドからも大量の優秀な人材を引き寄せられる
「シンガポールは、中国本土からもインドからも、あらゆる地域から大量の優秀な人材を引き寄せられる」と語るブロンドーは、普段はサンフランシスコとドバイの2つの自宅を行き来しながら、世界を飛び回っている。フォーブスは、先月ジャカルタで開催された「フォーブス・グローバルCEOカンファレンス」の会場で彼に取材した。
「特に中国の人材に期待したい。中国には、極めて能力の高い人材が非常に大きなプールとして存在し、スキル水準もきわめて高い」と彼は続ける。実際、ベンチマークやテンセント、HSG(旧セコイア・チャイナ)が支援する中国発のAIエージェント企業Manus(マヌス)は、2025年に入り中国からシンガポールに移転した。ファストファッション大手のShein(シーイン)や投資会社ヒルハウス、HSGもここ数年で同じく移転している。
金融から物流、通信、航空まで、あらゆる産業が集積
ブロンドーは、シンガポールを世界有数のスタートアップ拠点であるテルアビブになぞらえる。グーグルが320億ドル(約5兆円)で買収したサイバーセキュリティ企業Wiz(ウィズ)、インテルが150億ドル(約2.4兆円)で買収した車載カメラの先駆者のMobileye(モービルアイ)は、テルアビブから生まれた。
「地理的には非常にコンパクトなシンガポールには、金融から物流、通信、航空まで、あらゆる産業が集積している。多国籍企業の地域本部も置かれている」と彼は語る。実際、グーグルやメタはシンガポールをアジアの地域本部にしている。
OpenAIがアジアの拠点としてシンガポールを選んだ背景には、「シンガポールがAI分野のリーダーとして頭角を現してきたことがある」と同社のサム・アルトマンCEOは昨年の声明で述べていた。また、OpenAIの戦略担当トップであるジェイソン・クォンは2025年5月、「シンガポールは1人あたりのChatGPT利用率が世界で最も高い」と語っていた。



