地域の未来を担う青年リーダー、若手経営者が集う商工会議所青年部(YEG)。地域の永続的繁栄から国際連携まで“グローカル”視点で社会課題解決に挑む日本のリーダー集団だ。その真の姿を、小野知一郎YEG会長が語る。
日本における商工会議所の起こりは、1878(明治11)年に設立された東京商法会議所であり、初代会頭に就任したのは2024年に一万円札の肖像となった渋沢栄一翁だ。「中小企業の活力強化」「地域経済の活性化」を目的とした日本商工会議所のなかで、20〜40代を中心とした若手経営者や後継者が自発的に立ち上げた組織が青年部(以下、YEG)である。
親団体である日本商工会議所は、日本における全法人の30〜40%を占める125万社会員、政策提言団体のひとつとして政策にも影響を及ぼすほどの存在だ。YEGの会員数は約3万2,000人で、青年経済団体としては日本最大規模を誇る。地域ごとに単会があり、それぞれの活動も盛んだ。「YEGは経済を通した地域づくりをする団体でありながら、スケールメリットがあることが特徴です」と会長の小野知一郎(写真。以下、小野)は語る。
「私の地元である石川県の小松YEGでは、求人や地域情報を発信する仕組みを構築しています。私自身もこの5年で、YEGのメンバーと5社ほど会社を設立しました」
活動の根底には、自社の利益だけを追い求めるのでなく、国や地域、そして次の世代の未来に責任をもち、私益と公益の両立を図り貢献するべし、とする渋沢翁の「道徳経済合一」の思想がある。「子や孫や、地域と国の未来のために」と考え、行動する公の精神と道徳心から生まれる信頼こそが、最も重要であり、お金はその後についてくるという教訓だ。
「今の資本主義は、都市への集中投資をしています。しかし、私は自然やローカル文化が根付く地域でこそ、日本の民族性が育まれてきたと考えています」と小野は力を込める。
「YEGはこうした『道徳経済合一』の精神のもと、経済を通じて地域の永続を目指す経済団体です。私たちの取り組みの成果が見えるのは50年後、100年後でしょう」
YEGは次世代リーダーの育成に積極的だ。日本の少子高齢化や人口流出などの課題を打破するために、地域を牽引するリーダーをより多く生み出すことが急務とし、2025年11月愛知県岡崎市で「全国リーダーズ研修会」を開催。全国から約5000人のリーダーが集い研鑽を積む。さらに、地域と世界をつなぐ“グローカル”戦略にも力を入れている。
「中小企業の約70%は国内市場に依存していますが、日本の人口減少と市場縮小を考えると、その延長線上に未来はありません。中小企業こそが海外に目を向けるべきであり、YEGがその後押しを担います。地域にしかない宝や文化に付加価値を与え、海外に発信していきたいのです」
YEGは人口増加と経済発展が著しいアジア市場との連携を進めるべく、現在5カ国とMOU(基本合意書)を締結し、今年度は新たに6カ国との締結を予定している。また、アジア商工会議所連合会青年部(YEGAP)の会長に日本YEG副会長の青木大海が就任。中小企業が海外進出する足がかりをつくっている。現在では国内417のYEG単会の30単会が国際ビジネスを推進するまでになり、メンバーの海外法人設立の動きも活発化している。
「私の地元・小松YEGでは、会員116人のうち8人が3年後には海外に現地法人をつくるというKPIを設定しています。ほかにも今年度はニューヨークへの視察事業や、EXPO2025 大阪・関西万博での国際交流事業開催など、YEGが日本と世界の架け橋になるための活動を精力的に行っている最中です」(小野)
「サスティナブル宣言」が示す未来NY国連で発表されたVNR
日本YEGは令和3年度に「サスティナブル宣言」を発表し、持続可能な地域の未来をつくるために特に重要な3つのテーマを設定。①デジタル社会の実現②男女共同参画の推進③脱炭素への貢献、これらのテーマを軸に年度を超えて多様な活動に着手している。
「地域を守りさらに発展させていくためには、責任世代である地域リーダー、そしてYEGが時代の先駆けとなる必要があると考えています。変革を促し、文化を醸成することが何より大事。その象徴的な指針がサスティナブル宣言です」と小野は言う。
「私たちは経済団体ですので、デジタル活用といってもただ効率化を図るだけではなくいかに新しい経済的価値を創出するか、といった視点でさまざまな挑戦を行っています。例えば、来年2月に群馬県で開催される全国大会ではメタバースを活用した地域間連携やデジタル観光など、大会を通じてまちづくりを計画中です。新たな経済圏をデジタル空間のなかに創出し、青年リーダーらしい視点での取り組みを実施する予定です」
また、世界に大きく後れをとっているジェンダー、経済分野においても変革を起こすべく、男女共同参画推進にも取り組んでいる。
「令和5年度に日本YEG初の女性会長として木村麻子前会長が就任しました。これは、ジェンダーギャップで世界に後れをとっている経済分野においても大きな出来事であり社会的インパクトを生み出しました。
日本の永続的な未来を実現するためには、女性活躍社会実現はなくてはならない重要なテーマです。私はその思いを引き継ぎ、今年度『YEGウーマンアワード』の立ち上げを行いました」
日本YEGのこうした施策が注目を集め、2025年7月には国連ハイレベル政治フォーラム(HLPF)で発表された日本政府の「SDGsに関する自発的国家レビュー(VNR)」に日本YEGのサスティナブル宣言と取り組みなどがモデル事例として掲載された。
「これだけのスケールメリットをもつYEGだからこそ、国や大企業ができないことを担えるのです。単一企業ではなく、地域と共に成果を出すことが重要」と小野は持続的な社会発展への決意を新たにする。
持続可能な地域社会づくりの具体事例も出ている。小野の地元・小松市では、廃校となった旧波佐谷小学校を中心とする地域創生拠点「HASADANI Village」を展開中。地域の農業・食・文化をつなぐハブとして、マネタイズしながら、ローカルで育まれた日本人の民族性を次世代へ受け継ごうとしている。
「今の資本主義の仕組みを変えなければ、地域は滅びゆくだけ。経済人の責任として、ここでしかできない永続的な地域の未来像を表現しているのが『HASADANI Village』なのです」
さらにYEGは将来に向けてのロードマップとして「日本YEG Design 2023-2027〜中期ビジョン実現のための13テーマ〜」を発表。2026年2月の全国大会では、新たな理念体系を共有する予定だという。小野は最後に、日本が直面する課題への打開策を語った。
「戦後、日本は中央集権的なアプローチで高度経済成長を遂げましたが、現代の多様化した社会では、そのモデルは通用しません。これからは地域主権の時代であり、それぞれの地域がもつ長所や役割を活かして経済価値を生み出すべきではないでしょうか。
日本経済の根幹を支えるのは、企業総数の99.7%、雇用の70%を占める中小企業です。地域が独自にビジネスモデルを展開し、イノベーションを起こすことが、日本の閉塞感を打破するカギを握ると考えています。民の力による変革を、全国に広げていきたい。そうして生まれた強い地域の総和が、強い国をつくると信じています」
日本商工会議所青年部(YEG)
https://yeg.jp/
おの・ともいちろう◎愛媛県新居浜市出身。日本商工会議所青年部会長(小松YEG所属)。やまとグループ代表取締役社長。創業12年で年商108億円、25社、770名を有するホールディングス経営を営む。令和7年度日本商工会議所青年部会長に就任。



