近年、事業承継型のM&Aが増加しているが、短期的な利益追求が企業の未来をゆがめるケースも少なくない。そこに一石を投じるのがオリックスだ。
企業のオーナーに寄り添い「時間」と「選択肢」を提供する同社の哲学とは何か。同社にて事業承継支援事業を率いる丸山大輔がその本質を語る。
近年、事業承継は日本社会における喫緊の課題であり、後継者不足に悩む企業は年々増加の一途をたどっている。M&Aを含む多様な選択肢は広がりつつあるが、オリックスで同事業を率いる丸山大輔(写真。以下、丸山)は「短期的な利益を狙うM&Aには弊害もあり、市場はまだ過渡期にある」と語る。
そのような状況でオリックスが掲げるのは、マーケットインの発想だ。「まずお客様が何に困っているのか、そこから入るのが私たちの考え方です」と丸山は言う。
象徴的なのが「オリックスによる株式譲り受け」だ。オーナーから株式を譲り受け、承継したあとは、オリックス社員が常駐する。オーナーとやり残したこと、やりきれなかったことを二人三脚で実現するのだ。後継者の育成や営業体制の再構築、オーナーの頭の中にある暗黙知の言語化、時には人事制度の改訂などにも取り組むことがある。「株式の譲り受け」=「オーナーが引退して完了」ではなく、企業が持続的に成長できる土台づくりにも伴走するのだ。
この思想の根幹には、法人金融を祖業とするオリックスならではの歴史がある。主要顧客である中小企業との長年の取引を通じて、金融面に限らない多様な経営課題に向き合ってきた。だからこそ、提供するソリューションも多様だ。「オリックスによる株式の譲り受け」はあくまで選択肢のひとつ。オーナーが真に望む未来を見据え、株式移譲のコンサルティングから資産の換価・処分まで、あらゆる可能性から最適解を探る。企業の持続的成長こそが、同社のソリューションの本質なのだ。
事業承継の本質と向き合うオリックスの哲学
オリックスが提供するのは、短期的な企業価値向上ではなく、企業が自らの足で未来へと歩むための「組織の基礎体力」と「時間的猶予」だ。
まず着手するのは、全社員との対話だ。オーナーから自社の課題を聞くのはもちろん、社員の立場から見た課題も丹念に吸い上げていく。そのうえで、属人的な経営から脱却すべく、オーナーの頭のなかにある、暗黙知、人脈・ネットワーク等を言語化、可視化し、後継者が経営する際の助けとする。また、必要に応じて、人事制度の改訂など組織力を強化していく。このように変えるべき点は変え、企業文化、社名、雇用、取引先など変えるべきではないものは、しっかりと守り続けながら、組織として自走できる体制を構築していく。
この当事者として深くかかわる姿勢は、単に優しいだけの支援を意味しない。時には愛情をもって厳しい指摘を行うことは、長く伴走する存在であることの証左でもある。そして、この思想を支えるのが「時間的猶予の提供」という考え方だ。

「一時的にですが私たちが株主になることで、企業には時間的余裕が生まれます。その間に、必要な時間をかけて後継者の育成や各種課題解決を推進していくことができます。数年でのイグジットを目指す投資ファンドも存在しますが我々は期限ありきではなく、オーナーからバトンタッチを受けた際の企業の課題が解決しているか否かに重きをおいているのです」
その言葉を裏付けるように、同社の事業承継支援では拙速に課題解決を推進せずに、1年目は役職員と対話を重ね、株式の譲り受け前にオーナーとすり合わせていた課題解決に着手しながらも、何が本当に解決すべき課題なのか答え合わせする時期としている。そのうえで、1〜2年をかけて後継者育成等、オーナーの「やり残したこと」を進め、さらにその後2〜3年をかけて後継者候補と二人三脚であゆみを進めて、最終的に後継者候補が独り立ちできるように見守っていく。顧客の生涯に寄り添い、ひとつの承継に長い時間をかけていくのだ。
承継とは、単なる事業の売買ではなく、企業の文化や思想、人の想いを未来へつなぐ営みである。その本質と向き合う哲学こそが、オリックスの最大の強みなのだ。この事業を率いる丸山のキャリアも、その哲学を裏付けている。彼の多彩な経験こそが、画一的ではない「伴走力」の源泉だ。
かつてPE(プライベート・エクイティ)投資の部門に在籍した丸山は、投資先が投資からわずか9カ月で倒産するという失敗を経験した。事業投資は単なる数字のゲームではなく、「人の想いをどう引き継ぐかが最も重要だ」と気づかされたという。この原体験に加え、丸山の視野を広げたのが再生可能エネルギー事業の立ち上げだ。金融の論理だけでは解決できない複雑な課題と向き合った。
「再生可能エネルギー事業は、地主や地域住民、行政など、多くのステークホルダーとの対話が不可欠です。地域社会にどう貢献し、長期的な信頼関係を築くか。その経験を通じて、物事を多角的にとらえ、ファイナンス以外の価値を生み出す視点が養われました」(丸山)
PE投資と再生可能エネルギー。このふたつの経験で培われた「人の想いと向き合う姿勢」と「事業を多角的にとらえる視点」は、現在の事業承継支援の血肉となっている。中小企業のオーナーが背負う事業、社員の生活、地域社会とのつながり。その複雑な状況を理解し深く対話できるのは、丸山が多様な現場で奮闘してきたからに他ならない。
さらに、グループがもつ機能の多様性も伴走力を確かなものにしている。例えば、経営者の健康面をサポートする会員制医療クラブの紹介もそのひとつ。事業承継を財務や経営だけでなく、経営者の人生に寄り添うトータルサポートと考えているのだ。
“想いのバトンタッチ”のエコシステムを構築
「私たちが目指すのは、オーナー、社員の方々、そして支援させていただいた私たち全員がやって良かったと思える事業承継です。オーナーの“想いのバトンタッチ”をお手伝いすることで、承継後も良好な関係を続けていきたい。この考えが、私たちのビジネスの根幹を成しています」(丸山)
このエコシステムを実現するためには、オーナーに最も近い専門家たち同士の連携が不可欠だと丸山は考える。
「私たちはシェアを独占したいわけではありません。むしろ、地域の金融機関や税理士事務所といった、日々オーナーと向き合っておられる方々とも一緒に汗をかきたい。自組織だけでは解決策を提供しきれないという課題意識をおもちであれば、ぜひ私たちを“使い倒して”いただきたいのです」(丸山)
企業の数だけ、承継のかたちは存在する。画一的な正解がないこの領域で、オリックスはこれからもオーナー一人ひとりの想いに寄り添い、未来を模索し続ける。その真摯(しんし)な対話の先に、また新たな価値創造の物語が紡がれていくはずだ。
オリックス
https://www.orix.co.jp/grp/
まるやま・だいすけ◎オリックス 法人営業本部国内事業推進部長。国内事業推進部長として、投資と事業開発の経験を生かしながら、オリックスらしい事業承継ソリューションの提供支援体制を構築。



