日本の正月の食卓を彩るおせち料理は、現代において家族や親族が集まる数少ない祝の席として、その需要を維持している。しかし、近年、おせち料理の価格は上昇の一途を辿っており、物価高騰の波は正月を象徴するこの伝統食にも及んでいる。
帝国データバンクの調査によると、2026年正月のおせち料理の平均価格は2万9098円となり、前年から1054円の値上げ、率にして3.8%の上昇を記録した。

この値上げの背景には、原材料価格の高騰、重箱などの包装資材、そして配送費用の高まりなど、複数のコスト増要因が存在する。調査対象となった110社のうち、約6割にあたる65社がおせちを値上げしており、飲食料品全体を覆う物価高の影響が表れている。
特に、子孫繁栄の願いが込められるイクラや数の子といった高級魚介類は、円安や不漁、人件費上昇のあおりを受け、価格が急騰している。また、猛暑による不作が続く黒豆類や鶏卵なども、値上げ圧力を強める要因となっている。

この結果、おせちの平均価格は、一般的なボリュームゾーンの上限とされる「3万円の壁」に迫る水準に達している。
値上げの幅を見てみると、「1000円台」が22社と最も多く、「2000円台」が14社、「1000円未満」が13社と続いた。1000円未満の値上げは2023年の正月以降で最多となり、小幅に抑えるケースが目立った。これは、価格を1万円台などの低価格を重視する量販店のほか、百貨店で展開するオリジナル系も大容量やお得感を前面に打ち出し、コスパ重視の消費者をターゲットにしたとみられる。
その一方で、値上げ幅が3000円を超えるおせちも16社確認されており、高級ホテルやレストランが監修する商品などでは「量より質」を重視し、食材のグレードアップを図るなど、豪華絢爛さをセールスポイントとする戦略が強まっている。
今後のおせち市場は、「質の向上や限定感」で高価格をめざすプレミアム路線と、「大容量・コスパ」で価格競争に挑む路線の2極化がさらに続くと予想されている。2027年以降は、値上げの難航が予想されるなか、いかに自社商品の付加価値と差別化戦略を明確にできるかが、市場での生き残りの鍵となるだろう。



