マーケティング

2025.11.19 15:15

アクサ保険がDV対策で契約増 カンヌライオンズ受賞

Three Words (case study)より

Three Words (case study)より

世界から広告コミュニケーションの優秀事例が集まるカンヌライオンズ。受賞事例には企業による社会課題解決ものが多い、と言われて久しい。

以前は、当該の社会課題について効果的に伝えて啓蒙しようとするTelling型のものが多かったが、ここ数年は、実際に何か行動を起こすことで直接的に社会課題解決を図ろうとするDoing型が増加している。

その典型となるのが、話題作となった仏AXA保険による「スリーワーズ(3つの言葉)」だ。2025年のカンヌライオンズで、クリエイティブ・ビジネストランスフォーメーション部門を始めとする3部門でグランプリを獲得した。

AXA - Three Words (case study)

この事例でAXAは何をしたのか? 書き表してみると、大変に地味なものだ。事例タイトルにもあるように、スリーワーズ(3つの言葉)を住宅保険の契約書に加えただけだ。気の利いた表現も、世間を驚かすようなビジュアルもない。

同社は、住宅保険の契約書に記された「火災」「洪水」に続いて次の3つの言葉を付け足した。「and domestic violence(それと、ドメスティックバイオレンス)」である。

フランスでは、火災や洪水で家に住めなくなった時に適用される住宅保険への加入が、すべての家庭に義務付けられているという。一方で、警察の発表でも、毎年21万人もの女性がドメスティックバイオレンスの被害に合っている。より具体的には、3919人のドメスティックバイオレンス被害者がNGOのヘルプデスクに電話をかけ、その77%は緊急の引っ越しを必要としていた。しかし避難所施設が足りず、77%の引っ越しを必要とする女性のうちの40%は、何の援助も受けられず放置されていた。

そこで同社は、住宅保険の契約書に「and domestic violence」と加えることで、緊急避難を求める女性達がエマージェンシーコールに電話をすれば、すぐに避難できるようにした。ドライバーがただちに彼女をピックアップし(子供がいる場合は子供も含めて)、ホテルなどの安全な場所に移動させ、心理的・法的・経済的な援助が受けられる。中長期的な解決策を得られるようにしたのだ。

結果として、最初の1カ月だけで121人がサポートを受け、AXAの住宅保険を新しく契約する人は9%増加し、AXA住宅保険への加入を検討する人は67%(業界平均は43%)を記録した。これらの数字は、「スリーワーズ」がAXAのブランド価値のアップにきちんと貢献したことを示している。

また、AXAはこの活動を「THREE WORDS」と名付け、屋外広告やテレビCM、ウェブ動画などで周知を図った。それでもその中核にあったのは契約書に3つの言葉を加えるという「Doing」であったことは間違いない。

現在のマーケティング活動は、単に優れたコミュニケーションをすることにとどまらず、必要があれば有効な手立てを“実行”することで成果が挙がる時代を迎えていると言えるだろう。上手く伝えようとばかりせずに、何をすれば課題解決に繋がり、結果として望ましいコミュニケーションが生まれるか、と問いかけてみることが大切だ。

毎日19時~21時のカンヌライオンズ贈賞式。閉会後に参加者でごった返す会場外の様子(筆者撮影)
毎日19時~21時のカンヌライオンズ贈賞式。閉会後に参加者でごった返す会場外の様子(筆者撮影)

文=佐藤達郎

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