経済・社会

2025.11.25 08:15

日本初の擬似万引き実験で判明、犯行を断念させる意外な心理的要因

Getty Images

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香川県は、かつて人口1000人あたりの万引き認知件数が全国ワースト1という不名誉に甘んじていたが、香川大学と香川県警察の努力により大幅な改善に成功した。しかし、また近年増加に転じたことを受け、香川大学は日本初の「擬似万引き」の実証実験を実施し、代表的な万引き対策の効果を比較した。

実験では実際の店舗に協力してもらい、店内の万引きが起こりやすい箇所に万引き防止対策を施したうえで、香川大学の学生と大学院生に万引きをさせた。そして、各対策に対する生理的反応や行動を観察した。使用した万引き防止対策は、仕掛けによって人の自然な行動変容を促し社会課題を解決しようという学問「仕掛け学」などで有効とされているもののうち、光の刺激、不安を喚起する音、鎮静を促す音、防犯カメラの存在を気づかせるポスター、目のポスター、店員の挨拶の6つ。

その結果、万引き犯を躊躇させる効果がもっとも高かったのが、圧倒的に店員の挨拶だった。光や音はあまり効果がなく、防犯カメラのポスターに至っては、そもそも気づいてさえもらっていない。

これらの対策(条件)が万引き犯に与える生理反応も観察した。評価に用いたのは世界で広く使われている気分の尺度「POMS」のうち、「緊張ー不安」、「疲労ー無気力」、「混乱ー当惑」、「抑うつー落ち込み」、「怒りー敵意」(悪さをしたい気持ち)の5つ。

左の「ベースライン」は何も対策しない場合。*は有意な差があることを示す。
左の「ベースライン」は何も対策しない場合。*は有意な差があることを示す。

なかでも、店員の挨拶は「緊張ー不安」の得点で他のすべての条件に有意な差をつけた。「怒りー敵意」はどれもほとんど差がなく、残りの3つも差は小さいものの、すべて挨拶の得点がやや高かった。

挨拶以外はベースラインとの有意差がなく、効果がないことがわかる。
挨拶以外はベースラインとの有意差がなく、効果がないことがわかる。

注意ではなく「挨拶」が効くのは、好意的なコミュニケーションで相手の良心を揺さぶるためか。やはり人に勝るものはない。とは言え人手不足の昨今、人がいないから音や光やポスターに頼っているのが現実だ。おそらくロボットでは人の心を動かす「挨拶」は難しいだろう。正解はわかったが、もどかしいところだ。

ちなみに、万引き犯を演じた学生たちが本物の万引き犯と間違えられてGメンに捕まらないよう、事前に店舗関係者やお客さんに実験の内容を説明し、「安全かつ法的に問題のない形」で実施したとのことだ。お疲れさま。

プレスリリース

文 = 金井哲夫

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