課題は互換性の拡大と法人市場の開拓
一方で、Armアーキテクチャを採用するWindows PCに対して、既存のx86アーキテクチャをベースに作られたアプリケーションや周辺機器との互換性を懸念するユーザーも少なくない。井田氏は「課題の解決を着実に進めている」と語る。
アプリケーションについては主要なベンダーによるソフトウェアがArm版の提供を始めている。Arm版のネイティブ対応ができていないx86アプリケーションについても、Windows 11が採用するバイナリトランスレータ「Prism」により、すべてではないものの多くが動作可能になった。
周辺機器については、例えばプリンターなどコンシューマー向けの製品についてほぼ100%に近い互換性が確保されたという。あとは、業務用複合機に企業がカスタマイズして導入した機能のサポートなどローカルな部分で対応できていない部分も残るが、井田氏は「こうした課題も解決に向けた目処が立っており、2026年の年初ごろまでにほぼクリアになる見込み」だと話している。
アプリケーションの互換性確保を進めながら、クアルコムが注力するもうひとつの施策が「法人(エンタープライズ)市場の開拓」だ。この課題に対して本格的に向き合うための「切り札」になるのが、X2 Eliteシリーズに導入される「Snapdragon Guardian」だ。その概要はユーザーがデータのロック、消去、アプリケーションの一括アップデートなどBIOSレベルでの遠隔コントロールを提供するサービスだ。
「従来のエンタープライズ市場、高等教育の現場では、こうした遠隔操作によるマネージャビリティやプロダクティビティに関するテクノロジーが必須要件とされる場合も多く、これがない状態ではSnapdragon Xシリーズを搭載するPCが、エンタープライズ市場で導入検討の対象になりにくい現状がありました」
井田氏はSnapdragon Guardianの導入により、法人市場におけるSnapdragon搭載PCへの不安材料を払拭したいと意気込む。
PC市場におけるSnapdragonのネームバリューはまだ確立されたとは言い難い。井田氏はまずは多くのユーザーに体験してもらうことが何よりも重要だと、言葉に力を込めた。「今年は夏から秋にかけて、日本国内4都市で大規模なタッチ&トライイベントをクアルコムが主催しました。今後は量販店の店頭にSnapdragon搭載PCのコーナーを常設したり、インストア・イベントなどを通じて顧客との接点を増やしていく」という。
SnapdragonのSoCがもたらす「長持ちするバッテリー」や「インスタントオンの快適さ」といったメリットは、言葉で説明するよりも実機に触れた方がはるかに強く感じられる。だからこそ、ユーザーがその体験に出会う場を着実に広げていくことが肝要だ。クアルコムが持ち込んだ新しい潮流は、コンピューティング市場の勢力図を塗り替える可能性を秘めている。
連載:デジタル・トレンド・ハンズオン
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