Copilot+ PCにより幕が開けた「AI PC元年」
2024年の夏にマイクロソフトがCopilot+ PCを発表した当時、その要件を満たすSoCは実質的にクアルコムのSnapdragon Xシリーズに限られていた。当時のAI PC市場を見渡すと、半導体メーカー各社はPCのローカル上で高度な推論処理を確立させるため、高性能なGPUを搭載することに積極的だった。
一方でPC市場全体を俯瞰すると、この時期には有機EL(OLED)ディスプレイを搭載したハイエンド機が出揃い始め、クリエイター向けPCの市場が活況を呈した。企業ではオフィスワークとリモートワークを組み合わせたハイブリッド型の働き方が定着し、法人向けPCの需要も底上げされた。さらに、文部科学省をはじめ複数省庁が連携して進める「GIGAスクール構想第2期」がこの頃から始まり、日本全国の学校で端末の更新や再整備が一斉に進んだ。「振り返れば、PC市場が多角的に動いていた時期だった」と井田氏も語っている。
Copilot+ PCはこうした市場の動向に対して「40TOPS(1秒間に40兆回の演算)」以上のNPU性能を備えることを要件として提示した。これによりWindows系AI PCの定義が明確化され、市場がまた新たなステージに移行する。
井田氏は「過去を振り返れば、今までWindows PCのプロセッサはx86アーキテクチャの一択という状況が続いていました。実質的にインテルとAMDという、2つの大きなメーカーの製品しか選択肢がなかった」と指摘する。
そこに、アップルがArmアーキテクチャをベースとした自社製チップのAppleシリコンを展開。そしてクアルコムのSnapdragon Xシリーズが登場したことで、Windows PCにおいてもArmアーキテクチャが初めて本格的な選択肢として加わった。
Armアーキテクチャを採用するWindows PCに対する期待感を、井田氏はどのように受けとめていたのだろうか。井田氏は「製品が登場する前後で、市場の反応は大きく変わった」と語る。


