ロシアによるウクライナ侵攻を巡り、トランプ米大統領が28項目にのぼる和平案を提示した。ウクライナに領土割譲を迫る厳しい内容だ。27日が期限で、ウクライナが提案を飲まなければ、米国の支援を打ち切るという。折しも、ウクライナ東部ドネツク州の要衝ポクロウシクで、ロシア軍が猛烈な攻勢に出ている。高田克樹元陸上創隊司令官が「これでウクライナの敗戦が決まるわけではない」と語るなど、戦況は予断を許さない状況だけに、ウクライナとしては簡単に和平案を飲むわけにもいかない。
和平案では、捕虜交換などの評価できる点もあるが、ウクライナ軍の総兵力を60万人とすることや、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟を断念させるなど、総じてウクライナに不利な内容となっている。なかでも、激戦が続くポクロウシクを含む東部ドネツク州のウクライナ支配地域まで明け渡せという提案は、ウクライナにとって非常に受け入れがたい内容とみられる。
ポクロウシクはドネツク州の道路や鉄道の要衝。2024年8月にはロシア軍が急激にポクロウシクに迫るなど、すでに15カ月以上にわたって激しい戦闘が続いている。プーチン氏がポクロウシクのウクライナ軍が包囲されているとの考えを示すなど、戦況はウクライナにとって極めて厳しい。複数のメディアは、ポクロウシクが陥落した場合、その北方にあるウクライナのドネツク州防衛の最重要拠点、クラマトルスクとスラビャンスクが危機に陥ると指摘していた。
ただ、高田氏は「もし、ポクロウシクが陥落しても、ロシア軍は北に向かわず、西のドニプロペトロウシク州との州境に向けて進撃する可能性がある」と語る。高田氏がそう考える根拠は、ウクライナ軍が2014年以降、スラビャンスク~クラマトルスク~コンスティアンティニフカの間に構築してきた長大な防御線(要塞ベルト)の存在がある。高田氏はこの防御線について「スロビキンラインに匹敵する」と評価する。
スロビキンラインとは、ロシア軍が2023年春から夏にかけてウクライナ南部戦線に構築した強大な防御線のことだ。3重の防衛ラインをもうけ、「竜の歯」と呼ばれるコンクリート製の対戦車障害物、塹壕、高密度に敷設した何十万個もの地雷などで構成した。スロビキンラインのため、ウクライナの反攻作戦は失敗に終わった。
そのうえで、高田氏は今回、和平案受諾に至らなかった場合として「ウクライナ軍は今後、二つの戦略で対応する可能性がある」と指摘する。第一が「ロシア軍があきらめるまで、徹底的にすりつぶす戦略」だ。ロシア軍がクラマトルスクを目指すのであれば、防御線を使って徹底的にロシア軍を叩こうというわけだ。英国防省の分析によれば、ロシア軍の死者数は2025年3月時点で最大25万人とみられていた。22年2月のウクライナ侵攻時点での投入兵力36万人のほぼ7割にも上る。約1万5千人弱の兵士が死亡した旧ソ連のアフガニスタン侵攻(1979年12月~1989年2月)と比べても損失の大きさがよくわかる。



