そんなある日のことだ。テレビを眺めていると、海外駐在から一時帰国した日本人が、2週間の待機が課せられるなかでホテルを取れず、路頭に迷っているというニュースが目に飛び込んできた。すぐさま「一時帰国.com」というウェブサイトと特別宿泊プランをつくると、翌日には140件もの問い合わせが殺到。空き枠はすべて成約した。「平時は二毛作、非常時は災害シェルターや避難所、隔離施設として使い分けるなど、『空間の無限の可能性』にあらためて気づかされましたね」。
結果としてコロナ禍では、ひとりの退職者も出さず、賃料も全額支払い続けたことで社会的な信用も得られた。これが一因となって、同社は後に金融機関と連携して、都市型民泊運営に特化した不動産ファンドを複数組成するに至っている。
100億円規模の国内最大手となった今、吉田が業界の底上げを目指す背景には、観光立国こそ日本の目指すべき未来だという信念がある。「日本の人口は、100年後には3000万人ほどになるという予測もあります。そうなれば社会インフラはおろか、地方の経済や文化の維持は困難を極めるでしょう。足元では、移民をめぐる議論が活発ですが、私はその前に、地域住民の安心・安全を保ちながら、インバウンド観光客を拡大させることがひとつの解決策になりうるのではと思うのです」。
だからこそ、民泊が抱える問題を積極的に解決して、インバウンド客と地域のつながりをつくる努力を続ける。「しんどいと思うこともあります。でも、これは価値を生み出すチャンス」と一貫して吉田は前向きだ。その価値とは、「このお店のパンがおいしいとか、この公園で食べると景色も楽しめるとか、民泊をミニホテルとしてではなく、友達の家に泊まるような感覚をもってもらうこと。それによって、東京という都市への旅から、神楽坂や早稲田といった街の旅へと変わる。こうした旅のあり方が広まれば、民泊の存在意義も一気に高まる」。
「東京モデル」と名付けたこの価値と、多くの観光資源、治安の良さを考えれば、日本はフランスを超えるインバウンド大国になるポテンシャルがある。そしてその時が、matsuri technologiesが民泊の世界トップ企業になる日だと吉田は信じている。
吉田圭汰◎大学時代に起業した事業を売却後、2016年にmatsuritechnologiesを創業。ソフトウェアを主軸に、空間の価値を最大化するソリューションの「StayX」を展開。2025年に、運用宿泊施設数が3000施設を突破。


