起業家

2025.11.25 08:16

「ピンチはチャンス」、民泊国内最大手の飽くなき挑戦:吉田圭汰

吉田圭汰|matsuri technologies

吉田圭汰|matsuri technologies

11月25日発売のForbes JAPAN2026年1月号の特集「日本の起業家ランキング2026」で3位に輝いたのは、matsuri technologiesの吉田圭汰だ。

過去2年間で5倍成長を遂げた民泊運営大手の同社。代表の吉田圭汰は業界の底上げにまい進し、次なるステージに突き進む。


年間の訪日外国人数が4000万人を突破しようとするなかで、民泊の国内運営最大手であるmatsuri technologiesが事業を急成長させている。運営する民泊施設は3000件を超え、2025年2月期の運営売上高は過去2年間で約5倍となる75億円に伸びた。今期は100億円の大台に乗る勢いだ。しかし、代表取締役の吉田圭汰は、「事業はもちろん注力しています。ただ、それと同じくらいに業界そのもののレベル向上に取り組んでいます」と話す。

訪日客の増加に比例して、各地で起こっているのが、地域住民とのトラブルだ。民泊を規制しようという声も出ており、世間の目が厳しさを増しているという事情がある。ただ、この状況を吉田はピンチだととらえていない。「むしろ、業界と自社がさらに進化するための絶好のチャンスなんです」。

25年9月、吉田は一般社団法人民泊・小規模宿泊施設運営・管理者事業協会(JAMM)を立ち上げ、代表理事に就任。行政と連携しながら違法業者や悪質業者の撲滅に向けた活動に取り組み、適正に事業を行う事業者が地域社会から理解を得られるように働きかけている。

そもそも吉田にとって、ピンチはいつも飛躍のきっかけだった。16年の創業当初は、まだ民泊に関する法律も整備されていない状態。そこで民泊の運営ではなく、カスタマーサポートから事業を始めたが、新しい形態の宿泊業がゆえに、施設への誘導、鍵の開け方など、ゲストとのやり取りは予想以上の負担だった。「やりとりがあまりに膨大かつ煩雑で、これはきびしいなと。でも、それがソフトウェアの開発につながりました」と振り返る。

カスタマーサービスは大変だったが、トラブルの傾向や清掃のポイントなど、民泊の運営に必要な情報が蓄積されたことは大きな資産となった。そこで運営管理システムを自社開発。当時、日本にあった6万7000件の民泊施設の約30%が導入する大ヒットプロダクトとなった。

ところが18年、住宅宿泊事業法が施行され、民泊は年間180日までしか営業できなくなった。事業者は1万2000件まで減少。窮地に陥るかと思われたが、ここでも吉田は勝算を見いだした。

それが、民泊同様に市場が伸びていたマンスリーマンションだ。2つの産業を統合し、民泊に使わない期間に物件を短期借家として貸し出す事業モデルを考えた。「理論上、うまくいくことはわかっていました。ただ、実際にやってみると法律も税制もまったく違い、本当に大変でしたね」と言う通り、システムの構築には苦労が伴ったが、この「二毛作」モデルで運営事業に乗り出すことになる。

ただ、ピンチはこれで終わらなかった。

新型コロナウイルスの襲来だ。20年当時、40~50人の社員を抱え、物件の支払いもあるなかでインバウンド需要は蒸発。「残り資金から試算すると、倒産までに残された時間は6カ月しかありませんでした。ただ、宿泊がダメでも住宅需要さえあれば道は切り開けるはず。そう自らを奮い立たせて毎日、新しい事業を立ち上げ、ダメならまた次の策を練るという試行錯誤の日々が続きました」。

次ページ > 日本のインバウンド大国へのポテンシャル

文=古賀寛明 写真=小田駿一 ヘアメイク=yoboon

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事