「素人ゆえに経営塾に通ったら、『何のために経営するのか』『世の中をどうしたいのか』と繰り返し問われました。いいプロダクトをつくることしか考えていなかった自分には初めての視点で新鮮でした。面白くなって自社のミッションを決めたら、現場が活性化して取引先とのコミュニケーションも良くなった。もっと大きなスケールでやってみたいと考えて新たに起業しました」
創業時はシステムの受託開発から始めた。ただ、単に顧客から求められるものをつくるだけでは満足しなかった。
「自分はやはりプロダクトが好き。お客様には、『開発したシステムがイケていたら、プロダクトとして外販したい。そこにつながる案件なら』と条件をつけてお手伝いしていました」
宣言通り、蓮田は受託開発をきっかけに、飲食店の業務システムなど5つのプロダクトをリリースする。ただ、それなりに顧客に評価されるものの、どれもヒットには至らなかった。
「いいプロダクトも、時代の流れに合わないとヒットしません。かつて私がつくったワークフローシステムは、当初苦戦したものの、SOX法施行で売れ始めた。そういうものだから焦っても仕方がない」
粘り強く狙い続けてようやく実を結んだのが「hacomono」である。
「本番リリースから3カ月は、これまでのプロダクトと同じ感触でした。でも展示会でデモを見せたら突然お客様が増えた。ひとりで30社以上に売ったときに、あ、これは確変モードに入ったなと」
そこから先の快進撃はすでに紹介した通りだが、もちろん歩みを止めるつもりはない。来年には、BtoCサービス「FitFits」のリリースを予定。フィットネスやサウナなどのウェルネス施設を利用できる月額制サービスで、複数施設を使いたいユーザーと、利用者が少ない時間を有効活用したい施設をダイナミックプライシングでマッチングさせる。リボン型ビジネスは事業者を集めるところで苦労するが、すでに「hacomono」で多くの施設と接点があることが同社の強みになる。
今の勢いなら上場にも手が届くが、蓮田は「上場後に少なくとも3年は角度高く成長できるエンジンを仕込んでからでないと。今IPOする意味はない」と素っ気ない。新サービス「FitFits」がその役目を果たすのではないかと水を向けたが、
「いや、もっともっとです」
目指す水準が高いだけに自己評価は厳しい。蓮田から「わが社そのものが確変モードに入った」と聞ける日が楽しみだ。
蓮田健一◎エイトレッドで開発責任者を務め、東日本大震災後に父の会社を継承。介護事業から予防の価値に気づき、2013年にまちいろ(現hacomono)を創業。19年にウェルネス産業向けバーティカルSaaSをリリース。


