ここ数年、個人のデジタル・プライバシーはますます強固に守られてきた。エンドツーエンドで暗号化されたメッセージング。強力な暗号化で保護されたファイルストレージ。トラッキングクッキーの廃止。オンラインの匿名性。メールのセキュリティ。また、アップルがiPhoneなどの「ロックダウンモード」で先陣を切り、その後グーグルもAndroidの「高度な保護機能プログラム」で追随した。
だが、今や状況は一変しつつある。あなたのプライバシーは今脅威にさらされている。そして懸念すべきタイミングになりつつある。私たちのデジタル生活を取り巻いて一つひとつ積み上げられてきた壁は、今や脆弱になっている。そして事態は悪化している。
国家や企業の不穏な動き
EUのの児童性的虐待コンテンツ(CSAM)規制案による「チャットコントロール」構想、英国の「オンライン安全法(Online Safety Act)」とSection 122(スパイ条項、スパイクロース[spy clause]と呼ばれる条項)など、端末側でメッセージをスキャンする仕組み(クライアントサイド・スキャニング。CSS)が、政治的な支持を集めている。英国は、ファイルストレージに関して「当局が解読できない暗号化(warrant-proof encryption)」を規制する取り組みも先導してきた。
企業側の動きも注視すべきだ。グーグルはトラッキングクッキーの段階的廃止を撤回し、デジタル・フィンガープリンティングの禁止をやめ、すべてを見通すGemini AIをユーザーのGmail受信箱に解き放った。アップルがCSAM検出を理由に端末上の写真をスキャンする仕組みをうたい、プライバシーコミュニティから「クライアントサイド・スキャニングそのもの」と強く批判され撤回したことも忘れてはならないだろう。
EFF(電子フロンティア財団)がVPNを禁止しようとする立法者に警告
立法の照準に入った最新のプライバシー技術がVPNだ。これは、デバイスと第三者サーバーとの間に安全なトンネルを作り、ウェブトラフィックを中継する仕組みだ。利用は急増しており、その背景には、ポルノ禁止や年齢確認の導入によって、ユーザーが別の国にいるふりをして新しい法律やインターネット規制を回避する動きがある。
「政治家は、人々がプライバシーを守り、これらの侵襲的な法律を回避するためにVPNを使っていることに気づいた」とEFF(電子フロンティア財団)は警告する。「彼らの解決策は何か? VPNの利用を全面的に禁止することだ」。
この動きの先導役となっているのは、米国のウィスコンシン州だ。「ウィスコンシン州の議員たちは、『子供たちを守る』という名目でVPNを標的にし、プライバシーに対する戦いをエスカレートさせている」とEFFは説明する。「もし法制化されれば、ウィスコンシン州は、特定のコンテンツへのアクセスにVPNの使用を禁止する最初の州になる可能性がある」。
英国も同じ道をたどるか
そして筆者は、英国も同様の道をたどっていると考えている。VPN制限や年齢確認要件に関する政府内の考えをリークして世論の反応を探っている。これは、今年初めに成人向けコンテンツへのアクセスに年齢確認を義務づけた同国のオンライン安全法に続く動きである。
問題は、ポルノ禁止と同様にグローバルなインターネットの仕組みを誤解していること、またその誤解のもとに個人の自由を制限しようという発想は危険な道であるということだ。中国、ロシア、イラン、北朝鮮を見てみるとよい。



