米国では民間のECサイトなどが高度にデジタル化される一方、行政のオンライン手続きは使いにくさや州ごとのばらつきが長年の課題とされてきた。2024年に創業したニューヨーク拠点のスタートアップ、Kaizen(カイゼン)は、この公共サービスの“デジタル格差”を埋めようとしている。
Kaizenは10月30日、アンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)やアクセルといった著名ベンチャーキャピタル(VC)から2100万ドル(約33億円。1ドル=156円換算)を調達したと発表した。公園予約や交通チケット、許認可申請など住民向けサービスをまとめてオンライン化するプラットフォームで、地方政府と連邦政府の住民サービスを近代化しようとしている。
民間ECサイトは便利なのに、なぜ行政手続きは使いにくいまま放置されているのか
Kaizenは、困難な課題に挑もうとしている。レジャー施設の予約や公共交通機関のチケット購入など基本的な住民サービスへのアクセスは、本来であれば民間のECサイトなどのように便利で使いやすいものになっていたはずだ。ところが、現実にはその機会が生かされていない。コンサルティング大手EYの最近の調査によれば、デジタル・アクセシビリティを最優先事項と考える米国の州や地方政府の担当者の割合は全体の39%のみで、連邦政府でも43%にすぎなかった。
本来はこうあるべきではない。連邦レベルで米国は、デジタルサービスの改善に向けた法整備まで済ませている。2018年に超党派で可決された「21世紀統合デジタル・エクスペリエンス法」は、連邦機関に対し、ウェブサイトとデジタルサービスをユーザーフレンドリーで安全かつ効率的なものにアップデートするよう義務付けている。しかし、政府説明責任局(GAO)が昨年公表した報告書は、連邦機関がこの目標を達成できていないと警告した。同局によれば、政府機関は法律に盛り込まれた要件の約半分を依然として履行していないという。
「米国市民は、公的サービスのテクノロジーに関して、“二流のソリューション”を受け入れざるを得ない状況に追い込まれてきた」と、カイゼンの共同創業者兼CEOのニキル・レディは語る。彼は、公共部門がテック系起業家やイノベーターからほとんど関心を払われてこなかった点を問題視する。より収益性の高い分野へと人材が流れる中で、政府のデジタルツールの近代化は、レガシーシステムに依存する大手の進化の遅い手法に委ねられてきた。



