米国では、テスラの自動運転機能「オートパイロット」や「スーパーバイズドFSD(監督付きFSD)」を巡り、事故報道と安全性への懸念が繰り返し取り沙汰されてきた。テスラはこれまで「一般の車よりもはるかに安全だ」と主張してきたが、その根拠となる事故データは条件が揃っていない比較だとして、専門家やアナリストから強い批判を浴びてきた。 そのテスラが今回、FSDの新しい事故データを公開し、高速道路と市街地、北米と世界全体など条件別に「人間だけの運転」との安全性を比較したと主張している。
その数字がどこまで信頼できるのか、FSD+人間という組み合わせが本当に安全性を高めているのか、そしてテスラが目指す無人ロボタクシーにどれほど距離があるのか。過去にウェイモ初期チームの一員でもあった筆者が解説する。
テスラが「スーパーバイズドFSD」の事故データ公開、自社製品の安全性を主張
テスラは最近、運転支援機能「スーパーバイズドFSD(監督付きFSD)」の事故データを公表し、車の仕様や道路の種類ごとに、1件の事故までに平均何マイルを走行したかを開示した。これは、同社が数年間にわたって公表してきた悪名高い「オートパイロット」のデータに代わるものだ。旧来のデータは極めて誤解を招きやすいとして広く批判されており、テスラは今回、データの集計手法上の誤りをいくつも修正したと説明している。
同社は、監督付きFSDを作動させた車は、同等のテスラ車を人間が手動で運転した場合と比べて、市街地では世界全体で安全性が約1.5倍高く、先進運転支援システム(ADAS)の衝突警告システムやその他の能動的安全機能を備えていない古いテスラ車と比べれば4倍安全だと主張している。また、北米では「人間のみ」による運転と比べて安全性はほぼ2倍に達し、道路の種類を問わずこの傾向がみられるとしている。
過去の「オートパイロット」レポートが誤っていた原因
テスラが以前発表していたレポートは、「オートパイロット走行は平均的な車より10倍安全だ」という誤った主張をしていた。同社は、実際にはエアバッグが作動した高速道路での事故のみを、全人口を対象とする警察が報告した衝突件数と比較していた。自動車事故の多くはエアバッグを作動させていないこと、高速道路は1マイルあたりの事故件数が大幅に少ないこと、そしてテスラの運転者はもともと安全運転をする層に属することを踏まえれば、この比較が「実際よりも5〜6倍程度良く見える」のは当然だった。つまり旧来の比較は、テスラのオートパイロットを実態以上に良く見せるために誤った算出方法に基づいていた。筆者はこの問題点を何年も前に最初に指摘し、その後多くの人々も同様の批判を行ってきた。
そしてテスラは、ようやく手法を改めた。走行の90%以上が高速道路で行われるオートパイロットではなく、FSDのデータに切り替え、高速道路とそれ以外、北米と世界全体という区分けごとの数値を開示した。こうした内訳が示されたことで、本来必要な「同じ条件での比較」がはるかにやりやすくなった。
テスラの「重大事故」と「米国平均」は直接比較できるものではない
テスラはまた、エアバッグや火薬式シートベルトテンショナーが作動した「重大事故」と、作動しなかった「軽微な事故」に分けてデータを示している。テスラ車以外については同種のデータがないため、車両がレッカー移動された事故を重大事故とみなしているが、この区分にはエアバッグが作動しなかった事故も多く含まれる。そのため、テスラが引用している「米国平均」の数値は、テスラ車の数値と直接比較できるものではないと筆者は考えている。ただし、以前よりは条件が近くなっており、乖離も小さくなっていると考えられる。



