新たな懸念が広がっている。インフルエンザA(H3N2)型ウイルスの新しい変異株「K亜系統」の流行が深刻化しているのだ。すでに英国、カナダ、日本でインフルエンザ患者数が急増していることから、この冬「K亜系統」が北半球に深刻な大流行を引き起こす恐れが指摘されている。
ワクチンに含まれるウイルス株と「K亜系統」はかなり異なる
大きな懸念の1つは、今年のインフルエンザワクチンの基となったH3N2株と「K亜系統」のミスマッチだ。H3N2株は南半球で流行した夏の間に、7カ所の新たな変異を獲得したようである。これは知り合いがしばらく会わない間に整形手術を受けて顔の見分けがつかなくなってしまったようなもので、ウイルスの構造が変化した「K亜系統」に対し、従来のH3N2株を基に製造されたワクチンが効きにくい可能性を専門家は指摘する。
今季のインフルエンザワクチンはH3N2株の「J系統」とその派生の「J.2系統」を基にしている。このインフルエンザワクチンを接種すれば、免疫系はJ系統のウイルス株に対してより効果的に反応するようになる。しかし、現在の流行株は「K亜系統」に置き換わりつつあるため、ワクチンによる免疫防御が十全な効力を発揮しないかもしれないのだ。
ただ、ワクチンとウイルスにミスマッチがあっても、今季のインフルエンザワクチンがこの冬から来春にかけての流行においてまったく感染予防効果を発揮しないわけではない。英イングランドの公衆衛生行政を統括する英国健康安全保障庁(UKHSA)のデータによると、ワクチンは依然として有効性を示している。
一方で、ミスマッチが大きいほどワクチンの効果は低下する。ワクチンに含まれるウイルス株と流行株がうまくマッチするシーズンには、ワクチンの有効性は約60%に達する。だが、ミスマッチが顕著なシーズンの有効性は30%まで低下することがある。
通常、世界保健機関(WHO)は毎年2月に北半球向けインフルエンザワクチンの株選定プロセスを調整する。このリードタイムが必要な理由は、株の特定 から鶏卵でのウイルス培養、各種試験を経てワクチン製造・供給に至る全工程に5~6カ月を要するためだ。したがって、ワクチンに含まれる成分は2月以降に発生した流行株の変異や変化に対して万全には対応できない。



