コピーライターの細田高広さんが作られた
「海も山もある故郷を、なにも無い町と呼んでいた(*1)。」
というコピーがあります。
さすがプロのコピーなので、誰にでもできるものではありませんが、考えてみれば、海も山も故郷も町も誰もが知っている言葉です。その組み合わせだけで、人を動かすことができるのです。
(*1『物語のある広告コピー』パイ インターナショナル(2013年))
イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリは『サピエンス全史』(河出書房新社)において「私たちの言語は、噂話のために発達したのだそうだ」と解説しています。
「私たちの言語が持つ真に比類ない特徴は、(中略)まったく存在しないものについての情報を伝達する能力だ。見たことも、触れたことも、匂いを嗅いだこともない、ありとあらゆる種類の存在について話す能力があるのは、私たちの知るかぎりではサピエンスだけだ。(中略)虚構、すなわち架空の事物について語るこの能力こそが、サピエンスの言語の特徴として異彩を放っている(*2)」
(*2 『サピエンス全史』ユヴァル・ノア・ハラリ著 柴田裕之訳 河出書房新社(2016年))
この「虚構について語る能力」のある言語を持つからこそ、私たちは言葉から物語を想像できます。目の前にないもの──たとえば開発者の10年の苦労や、職人の手仕事への想い──をまるで自分が体験したかのように感じる。私たちは言葉を通じてイメージを膨らませ、共感し、心を動かしている。だからこそ人は言葉によって作られた物語にひかれるのです。
物語の持つ3つの力
私は、物語は、たとえ短くても、次の3つの力を持っていると考えています。「想像力を刺激する力」「共感を生む力」「記憶に残る力」です。
たとえば、お弁当屋さんでこう紹介されていたとします。
「朝5時から仕込んだ炭火の香り広がる焼き鳥弁当」
単に「焼き鳥弁当」とあるよりも、ぐっとイメージが広がります。


