北米

2025.11.18 11:30

現金離れの米国で「1セント硬貨」が製造終了、小売業界に混乱の懸念

2025年11月12日、ペンシルベニア州フィラデルフィアにある米国造幣局において、最後の1セント硬貨が打刻機に入れられた。(Photo by Demetrius Freeman/The Washington Post via Getty Images)

四捨五入の経済効果は限定的で、年間数億円の追加負担にとどまる

実務の観点では、経済学者は「影響はほぼ無視できる」とみている。四捨五入によって、ある取引ではわずかに支払いが増え、別の取引では少し減る──その結果、全体としてインフレを押し上げるほどの効果は生じず、消費疲れのアメリカ人にとっては安心材料になるという。

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2012年にペニーを廃止したカナダの分析でも、四捨五入は時間の経過とともに相殺されるという結果が出ている。ただし、2025年初めにリッチモンド連邦準備銀行とともに発表された別の研究は、カナダの研究には課題があると指摘した。というのも、それら研究は、個々の小売店の価格情報をもとに「仮想の取引額」を作り、購入の組み合わせや販売税について一定の仮定を置いているため、結論にばらつきが出るからだ。

今回研究者は、連邦準備制度が後援する全国代表サンプルを用いた決済調査「2023 DCPC」(実際の支払い行動を追跡する調査)のデータを使い、現金決済を5セント刻みに四捨五入した場合の「ラウンディング税」が、米国の消費者全体で年間約600万ドル(約9億3000万円)の追加の負担になるとの推計を示した。ちなみに、1セント硬貨だけでなく5セント硬貨も廃止すれば、消費者の負担は年間5600万ドル(約86億8000万円)に膨らむという。

“99セント”の心理的価格が、現金払いの世界で効力を弱める可能性

小売業者が使ってきた「価格の見せ方」にも変化が出るかもしれない。小売業界は長年、「4.99ドル」や「19.99ドル」に代表される“99セントの魔法”に頼ってきた。5ドルより4.99ドル、20ドルより19.99ドルのほうが価格が「かなり安く感じる」という効果だ。しかし四捨五入が導入されると、この手法は効力を失うかもしれない。現金払いの場合、最終的な支払い額がきれいな「切りの良い数字」で終わるケースが増えるためだ。

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売上税の計算と「小数点以下の税率」に新たな不確実性をもたらす

米国では、売上税を課しているのは連邦政府ではなく州政府や地方自治体だ。しかし今回のペニー廃止は連邦が決めたもので、州や市には発言権がなかった。売上税の計算は最終的な現金支払い額を四捨五入する前に行う必要があるため、この決定は州や市が担う売上税の計算実務に不確実性を持ち込んでいる。

こうしたケースは過去に前例がない。というのも、以前に半セント硬貨が廃止されたのは約225年前のことで、当時はまだ売上税という制度そのものが存在しなかったからだ(売上税を最初に導入したのは1930年のミシシッピ州だった)。

現金支払いの金額のみを四捨五入し、カード決済は四捨五入しないという運用にすれば、レジでの売上税の計算に混乱を招き、場合によっては訴訟に発展する可能性すらある。とりわけ、クレジットカードの手数料が上がる中で現金利用に切り替える人が増える状況では、「現金払いのほうが売上税が高くなるのは不公平ではないか」と消費者が疑問を抱く可能性がある。

小売業者にとっては、売上税の計算に関して移行措置があるのかどうかが気がかりだろう。多めに徴収すべきなのか、それとも少なめに徴収すべきなのか、判断が分かれる場面が出てくる。

現時点では、ペニー廃止に関連した「四捨五入ルール」はまだ存在しない。6.25%の売上税を課すマサチューセッツ州や5.5%を課すネブラスカ州のように、「小数点以下の税率」を採用している州や自治体も多い。今後は州や地方政府が追加のガイダンスを示す必要がある。

ペニー復活を望む声が登場する可能性は極めて薄い

トランプ大統領に、ペニーを一方的に廃止する権限が本当にあったのかは定かではない。硬貨の大きさや素材といった仕様は、本来すべて議会が定める事項だからだ。1857年に半セント硬貨が廃止されたときも、決定したのは議会だった。ただ、この問題は大きな争点にはならないだろう。議会で「ペニーを復活させるべきだ」と主張する議員が現れる可能性は極めて低い。

また、ペニーが生産ラインから消えたとしても、すぐに世の中から姿を消すわけではない。米国銀行協会(ABA)の推計では、現在も約2500億枚ものペニーが流通している。これだけの枚数が出回っており、しかも依然として法定通貨として有効である以上、完全に市場から姿を消すには何年もかかる見通しだ。

forbes.com 原文

翻訳=上田裕資

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