北米

2025.11.18 11:30

現金離れの米国で「1セント硬貨」が製造終了、小売業界に混乱の懸念

2025年11月12日、ペンシルベニア州フィラデルフィアにある米国造幣局において、最後の1セント硬貨が打刻機に入れられた。(Photo by Demetrius Freeman/The Washington Post via Getty Images)

銀行と連邦準備銀行を経由し、硬貨が全国へ循環する仕組み

一般消費者のほとんどは、店頭で買い物をした際、おつりとして硬貨を受け取っている。そして、小売現場を経験した人なら誰でも知っているように、店で余った硬貨は日常的に銀行へ預け入れられる。造幣局は、こうした銀行や金融機関を「FI(Financial Institutionの略)」と呼んでいる。

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FIは日々、店頭で硬貨を大量に必要とするわけではないため、余った硬貨を連邦準備制度の28の現金取扱拠点(キャッシュオフィス)や関連施設に預け入れる。連邦準備銀行に流れ込む硬貨の内訳は、このFIからの預け入れが約50%、硬貨処理事業者(コイン・アグリゲーター)からが約40%、造幣局から供給される新品の硬貨が約10%となっている。

連邦準備銀行は同時に、流通用硬貨の注文も受け付けている。地域ごとの需要に応じて、全米の約1万1000のFIに硬貨が配分される。連邦準備銀行が毎年流通に送り出す硬貨は500億〜700億枚で、金額にすると40億〜70億ドル(約6200億円~約1.1兆円)に相当する。

供給が不足すれば造幣局が増産する仕組みだが、ここ最近はその必要がほとんどなかった。2008年から2012年にかけて、ペニー(1セント)、ニッケル(5セント)、ダイム(10セント)、クオーター(25セント)の在庫は合計で43%も減少しており、FIからの注文も減少していた。

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現金決済の四捨五入を巡り、キャッシュ法と食料購入補助制度プログラム「SNAP」が企業の手を縛る

ペニーが姿を消したことで、多くの人が「これから店頭の支払いはどうなるのか」と疑問を抱くだろう。これは表面上は、単純なことに思える。現金で支払う場合、合計金額は5セント刻みに四捨五入され、購入額の末尾が0.03ドルや0.04ドルなら切り上げ、0.01ドルや0.02ドルなら切り捨てることになる。

しかし、それはあくまで現金決済の場合のみだ。カードやデジタル決済では、これまでどおり1セント単位の正確な金額が請求される。

法律面は、それほど単純ではない。少なくとも10の州や自治体には、現金利用者が電子決済利用者より不利にならないよう保護する「キャッシュ法」が存在しており、この仕組みがある限り、店舗側は現金払いの金額を切り上げたり切り下げたりすることができない。2025年初めには、全米コンビニエンスストア協会(NACS)が上院銀行委員会と下院金融サービス委員会に書簡を送り、四捨五入を全国レベルで認める法律を制定しなければ、「企業が現行法に違反する恐れがある」と警告した。しかし、今のところ法整備は進んでいない。

問題は州や自治体の法律だけではない。NACSは、現金決済に限定して金額を四捨五入する行為が、連邦の食料購入補助制度プログラム「SNAP」の利用規定に抵触する可能性も指摘している。

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翻訳=上田裕資

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