今度はライブ演奏のステージでAIと向き合う
アルバム『Wormhole』の制作にあたり、ユーミンがAIと向き合うことを決めた理由を聞いた。
きっかけは、2022年にリリースされたデビュー50周年記念ベストアルバム「ユーミン万歳!」と、その後に開催されたコンサートツアー「THE JOURNEY 50TH ANNIVERSARY」が成功を収めた直後にあった。ユーミン自身の中で、このままでは創作への情熱が枯渇するのではないかという強い危機感が芽生えたという。
クリエイターにとってベスト版をリリースして、アニバーサリー公演を開催できることは何よりの幸せだ。一方で、過去の作品に向き合う時間が多くを占めてくると、創作のベクトルが内向きにもなりがちだ。ユーミンの中に「新しいものを生み出したい」という、クリエイターとしての衝動が強くわき上がったことが、アルバム『Wormhole』の出発点になった。
全12曲を収録するフルアルバムをAIと向き合いながら作り終えたいま、ユーミンは「ソングライターである荒井由実としてデビューした当時の初期衝動が戻ってきた」と語っている。その言葉には、作曲家としてより自由にメロディを生み出すことができた達成感のようなものがにじんでいた。
前進を続けるユーミンの「AIとの共生」は始まったばかりだ。今年の11月から始まるコンサートツアー「THE WORMHOLE TOUR 2025-26」で、生演奏によるアルバム『Wormhole』のパフォーマンスにチャレンジする。
11月上旬に実施されたこのインタビューの折にも、ユーミンは「アルバムをライブに落とし込むことができました。リハーサルを繰り返しながら、自分が成長している実感がある」と、ポジティブな手応えを語っていた。2025年末の「第1期」を実施後、2026年の春からの「第2期」の再開後もほぼノンストップで、ユーミンは日本全国72公演におよぶコンサートツアーを駆け巡る。
そして2026年2月には新潟の苗場プリンスホテルで「SURF & SNOW in NAEBA」の全8公演が控えている。こちらも46年目の開催を迎える「冬のユーミン」を象徴するような音楽イベントだ。雪景色の静けさとステージのきらめきが交差する独特の舞台で、アルバム『Wormhole』の楽曲もまた聴くことができるのか楽しみだ。
松任谷由実という、日本を代表するトップアーティストが先陣を切って「AIと人間との共生」を目指して、大きな成果を残した。このアルバムは、これから後に続くアーティストにも勇気とモチベーションを与えるだろう。筆者は音楽制作の詳細をよく知らないが、松任谷由実/Yumi AraIの新作『Wormhole』が「ユーミンの最高傑作」のひとつに数えるべき名盤であることは、一人の音楽ファンとして確信している。
連載:デジタル・トレンド・ハンズオン
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