音楽

2025.11.18 10:30

松任谷由実の挑戦、「AIと人間・音楽は共生」できるか? たどり着いた答え

“Yumi AraI”というアーティスト名義で新作を発表した松任谷由実

本来、日本語の歌詞には言葉の行間、声の余白の部分に豊かな情報が表現されるのだと、ユーミンが続ける。

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「文字化されていないところにたくさんの情報があるのだと思います。歌詞が旋律と一体になる場面で、人は様々なイメージを思い描き、自分の心の情景を重ね合わせることができます。特に日本語は、行間のニュアンスが豊富な言語なのだということを、私も改めて感じました。歌いながら言葉を紡いでみて、そこからまったく新しい次の展開を広げる作業が人間によるクリエーションなのだとすれば、既にあるものを単純に組み合わせるだけでは良いものが生まれません」

AIは、表面的に「それらしい言葉」を並べることはできても、人間が言葉に込める感情や温もりをそこの再現できない。これは音楽に限らず、あらゆる生成AI技術が直面している本質的な壁であるとも考えられる。

「私たちが創った音楽の楽しみ方や感じ方については、あとは聴き手に委ねたいと思っています。“委ねる”という表現が相応しいかわかりませんが、私は自分の中で、それでいいんだって思っています」

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ユーミンはフランスの画家、アンリ・マティスが晩年に制作した『Blue Nudes』のシリーズや『Jazz』に代表される切り紙絵の作品がとても好きなのだと語る。

「卓越したデッサン力があるからこそ、シンプルに見える切り紙絵から生命の力強さが感じられます。私も、音楽をつくりながら、いつかこの高みに到達したいと思っています。例えば『岩礁のきらめき』という曲を聴いていただくと、ブロックごとには繋がっていないように感じられるところがあるかもしれません。でも、そこは感覚的に繋げたつもりです。楽曲を聴いてくださる方々が、自分の感情や体験、何かを重ね合わせたところにストーリーが生まれるだろうという期待を持ちながら、思い切りのようなものを大切にして曲をつくりました」

ユーミンは「特に歌詞に関しては、自分で苦しみながら私らしい歌詞を書きたい」という強いこだわりを繰り返し口にした。テクノロジーを活用しながら、効率や利便性を高めるだけでは到達できない、クリエーションにおける作家性やパーソナリティの重要性に関わる示唆に富んだ言葉だ。 クリエーションという、ある種の「苦しみ」を伴う作業を乗り越えることでしか、本当にオリジナリティのある良いものは生まれない。これからAIがどこまで進化しても、この事実は変わらないのだろう。

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編集=安井克至

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