「イノベーションのマインドセット」とは何か
イノベーションのマインドセットとは、神秘的な才能ではない。それは、培われるべき一連の姿勢とプロセスだ。
その核心は、3つの要素の組み合わせだ:
1. 飽くなき好奇心:「そういうものだから」と受け入れることができない在り方。むしろ、「なぜ?」や「もし~だったら?」と問い続ける習慣だ。なぜDVDを所有する必要があるのか?(ネットフリックス)。なぜロケットは使い捨てなのか?(スペースX)。
2. 根源的な共感(ラディカル・エンパシー):これは、顧客調査を超えたところにある。言葉にされないニーズや摩擦、そして「達成すべき仕事(jobs to be done)」を深く理解する能力だ。これらは、顧客が製品を「採用する」理由となる(なお、「達成すべき仕事」とは、イノベーション研究の第一人者とされる経営学者クレイ・クリステンセンの概念だ)。
3. 実験志向:間違えることへの寛容さ。特に、イノベーションは直線的な一本道ではなく、作り、検証し、学習し、反復するという複雑なプロセスであるという理解。
こうしたマインドセットこそが、既存企業が脅威しか見いだせない、あるいは最悪の場合何も見いだせない状況において、組織がチャンスを見いだすことを可能にする。米国のビデオレンタル大手であったBlockbuster(ブロックバスター)は、ネットフリックスをニッチな通信販売サービスと見なし、娯楽提供の根本的変革とは認識しなかった。なぜか? ブロックバスターのマインドセットは、物理的な不動産と延滞料金収入に根差していたからだ。一方、ネットフリックスのマインドセットは、オンデマンドアクセスと顧客体験に根差していた。ネットフリックスは、ストリーミングが可能になった時、飛びつく準備ができていた(成功していた自身のDVDサブスクリプション事業を自ら犠牲にする覚悟で)。それは、中核となるマインドセットが柔軟だったからだ。
マインドセットの変化は自分から始まる
真にディスラプティブなイノベーションを生み出せる境地に至るには、まず自らの考え方を振り返ることから始める必要がある。「The Truth Hurts Show(ザ・トゥルース・ハーツ・ショー)」の創設者兼共同司会者であるブライアン・ゴールドスタインの物語は、マインドセットの変化がどれほど大きな違いを生むかを示す良い例だ。ゴールドスタインは、薬物乱用と身体的虐待が蔓延する家庭で育った。彼は、小学校6年生から大学まで、特殊教育の対象となる生徒だった。
ゴールドスタインは当初、自分は独立して自営などできないだろう、と思っていたが、より前向きな考え方に適応していった。そして、自身でビジネスを始めると、視点を変え、最終的にはビジネスコーチおよびブランドアンバサダーの役割へと移行していった。ゴールドスタインにとっては、自身のメンタルブロックを克服する方法を学ぶことが極めて重要で、それによって、同じ教訓を他の起業家たちとの仕事にも応用できるようになった。
すべての創業者がこうした種類の課題を乗り越える必要はないが、自分で自分の心に壁を築いてしまい、イノベーションに向けた意味ある一歩を踏み出せない状態に陥っている可能性はある。未知への恐怖、失敗への恐れ、新しいアイデアへの無関心や警戒心はすべて、変化への抵抗感を生む要因となり得る。
もちろん、マインドセットを変化させるには、自身の前進を妨げている潜在的な障害を認識するだけでは不十分だ。スコット・D・アンソニーが新著『Epic Disruptions: 11 Innovations That Shaped Our Modern World(壮大な破壊的革新:現代世界を築いた11のイノベーション:未邦訳)』で書いているように、ジュリア・チャイルドの有名なフランス料理レシピ本は、これらのレシピを米国人読者に身近なものにしたという点で、破壊的革新の典型例だった。チャイルドのディスラプティブなキャリアは、取り憑かれたような顧客サービスへのこだわり、好奇心、協働、実験への意欲、そして粘り強さという特性によってのみ実現した。


