11月3日、「山梨ヌーボー」解禁日。秋晴れの芝公園は、すでに朝11時の時点でビニールシートにびっしり埋め尽くされていた。手づくりの弁当やデリを広げ、グラスを片手に笑顔の人々。秋の光を反射するグラスの向こうで、「乾杯ー!」の声が上がる。
今年で36回目を迎える「山梨ヌーボーまつり」には、4千人以上が集まり、できたての新酒を片手に今年の収穫を祝った。

にごりからオレンジワインまで、多彩な日本の新酒
「山梨ヌーボー」は、日本の固有品種である甲州とマスカット・ベーリーAを、その年に収穫したぶどうで仕込んだ新酒のこと。解禁日は11月3日と決まっている。日本では多様な品種から新酒が造られるが、山梨県は甲州とMBAに絞り、解禁日も統一することでブランドとしての一体感を持たせている。
会場に並ぶのは、巨峰やシャインマスカット、デラウェア、ナイアガラ、ベーリーアリカント、アジロンダックなど、個性豊かな新酒たち。味わいも甘口から辛口、にごりやロゼ、オレンジワインまで実に多彩だ。参加者のひとりは、「アジロンのワインは初めて飲みましたが、とっても香りが良くてジューシーで美味しい」と、顔をほころばせていた。
今年のぶどうの出来は上々。山梨の老舗ワイナリー ルミエール代表の木田茂樹氏は「今年は限りなく五つ星に近い四つ星ですが、新酒に限って言えば間違いなく五つ星」と胸を張る。会場にいた造り手たちも、「今年は良いヴィンテージ」と口を揃える。収穫後半に秋雨前線の影響があったものの、生育期は雨が少なく、特に新酒用のぶどうは凝縮感に優れたすばらしい出来だという。
“流行”から“文化”へ
日本における「新酒の解禁日」といえば、長らくボジョレー・ヌーヴォーだった。1980年代から2000年代にかけて消費が拡大し、輸入量は2004年に約104万ケース(約1248万本)でピークを迎える。11月第3木曜日の0時の販売解禁に先んじて、空港に到着する初便がテレビで報道され、深夜のスーパーやコンビニには行列ができた。
しかし20年で状況は変わり、市場は約20年で7分の1に縮小。円安や物流コストの上昇、空輸による環境負荷への意識に加え、飲用シーンや嗜好の多様化が影響している。
その象徴が大手メーカーの撤退だ。アサヒビールは 2024年に自社輸入から撤退、サッポロビールも販売を休止し、続いてメルシャン(キリンHD)も2025年に輸入販売を終了した(グループ会社のワインキュレーションでは販売を継続)。
一方でサントリーは、ボジョレー・ヌーヴォーを「日本においてはワインの世界に踏み出すきっかけとなる商品として重要な役割」と位置づけており、撤退の予定はない。2025年も名門ジョルジュ デュブッフの「ボジョレー ヌーヴォー」4種6商品を発売する計画で、価格も据え置く方針だ。同社は「日本でボジョレーを楽しむ文化を継承していきたい」と話す。



