私たちは死者とどう向き合うべきなのか──この問いは、哲学の誕生と同じくらい古い。だが、人工知能(AI)が、かつては想像すらできなかったテクノロジーによって故人を「よみがえらせる」ことを可能にした今、私たちが本当に問うべきなのは、むしろ「生きている人とどう向き合うべきか」なのかもしれない。
AIで故人をよみがえらせる時代、生きている人との向き合い方を問う
人気ドラマ『ブラック・ミラー(シーズン2)』は数年前、この問いを正面から扱った。『ずっと側にいて(Be Right Back)』と題したエピソードでは、自動車事故で恋人を亡くした女性が、ある企業にその恋人を“復活”させるよう依頼するストーリーが描かれた。その企業はまず、彼女が愛した人のSNSの投稿やテキスト、ボイスメッセージなどの「デジタル上の足跡」からAIボットを作り、次に人工の身体を生み出した。
だが、願いが叶えば幸せになれるとは限らない。女性はすぐに後悔した。それは、復活した相手がどれほど本物らしく見えても、人工的に再現された恋人には人間としての本質が欠けており、かえって孤独と絶望が深まっていくからだった。
この物語はフィクションだが、その根底にあるテクノロジーはリアルに描かれていた。そして今、深い喪失感を抱えた人々の需要に応えるかのように、テクノロジーの進化は日々加速している。2016年、フリーライターのジェームズ・ブラホスは、父親が末期がんと知らされたことをきっかけにAIの力を借りた。彼は父との膨大な会話を録音し、2017年の父の死去後も対話ができるAI版の父を作り上げた。
デジタルアフターライフを現実する企業の登場
「AIで故人をよみがえらせる試みは長い間、SFのテーマとされてきたが、AIの発展によって現実に実行可能になった」とBBCは伝えた。2019年、ジェームズはこのチャットボットを「HereAfter AI(ヒアアフターAI)」と呼ばれるアプリとサービスに発展させ、利用者が自分の愛する人の分身を作れるようにした。
HereAfter AIは、同様の取り組みを行う他のベンチャーと並んで、この分野を牽引する存在になっている。他の企業には、例えば StoryFile(ストーリーファイル)がある。同社は、第二次世界大戦中のホロコースト(ナチスによる大虐殺)を生き抜いた人々の証言を保存するためのプラットホームとして始動した後に、故人との“対話”を可能にするインタラクティブなサービスへと事業を拡大した。
一方で、Project December(プロジェクト・ディセンバー)は「死者をシミュレートする」という刺激的な目標を掲げており、「特許出願中の技術と、世界でも屈指のスーパーコンピューター上で稼働する高度なAI」を組み合わせることで、たとえ亡くなった人であっても、テキストベースの会話を再現できるとサイト上で謳っている(2021年には、マイクロソフトが「画像、音声データ、ソーシャルメディアの投稿、電子メッセージ」、その他の個人情報に基づいてボットを作成」する特許を取得済みであることが明らかになっている)
大規模言語モデルを活用したゴーストボットが、故人の姿、言葉と声を模倣する
こうした技術を支えているのが、大規模言語モデル(LLM)だ。筆者は以前の記事で「AIマインド・クローン」と呼ばれるトピックを取り上げたが、企業はこの技術を使うことで、たとえ本人がこの世を去った後でも“賢明なリーダーの助言”を受けることが可能になる。
コンピューターサイエンス分野の学術メディアCommunications of the ACMは、「言語や画像、音声などを生み出す生成AIの進歩によって、人々は亡くなった人を模倣する“ゴーストボット”と会話ができるようになった」と説明する。同誌はまた、「今日のゴーストボットは魔法ではなく数学に基づくものだ。故人が残したデータを学習したAI言語モデルが、そのデータをもとに“故人ならこう話すだろう”という言葉や声を数学的に予測して再現する」と述べている。



