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2025.11.16 13:00

死者との対話を可能にする「デジタルゴースト」、世界的ブームとなるか

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感情の回復に欠かせない、「喪失を受け止めるプロセス」を損なうリスク

しかし、愛する人をこうした限定的な形で呼び戻すツールがすでに存在する一方で、慎重さを求める声もある。故人を再現できるようになると、感情の回復に欠かせない「喪失を受け止めるプロセス」が損なわれかねないという懸念があるからだ。

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科学誌ネイチャーは、この点について「故人との『内面的な関係』を築くことの重要性」を強調している。シカゴのデポール大学で生命倫理学と医療人類学を専門とするクレイグ・クルーグマンは、「私たちは故人そのものと対話するのではなく、その人の“心の中の表象”と向き合うことになる。私たちは故人を夢に見たり、語りかけたり、手紙を書いたりする。こうして時間がたつと、失った直後の圧倒的な衝撃は少しずつ和らいでいく」と語る。

この世を去った愛する存在の模造物──つまり複製されたパターンとやり取りする行為は、本来の悲嘆のプロセスを狂わせる、という見方がある。そうした行為は、喪失による心の痛みを脇に追いやったり、先送りしたりしてしまい、感情的な区切りをつけることを妨げるというのだ。

トム・ブレイディの愛犬クローンと、代替可能な存在になることへの不安

NFLの伝説的選手トム・ブレイディが、亡くなった愛犬をクローン化したという最近のニュースは、この議論をいっそう身近なものにしている。英紙ガーディアンは先日、ブレイディの家族が、ダラス拠点のバイオテクノロジー企業Colossal Biosciences(コロッサル・バイオサイエンシズ)と協力し、亡き愛犬ルアのクローン「ジュニー」を遺伝子工学で作り出したと報じた

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ブレイディはその理由をこう説明している。「私は動物が大好きだ。私と家族にとって、彼らは世界そのものだ。数年前、私はColossalと協力し、彼らの非侵襲的なクローン技術を利用して、愛する老犬が亡くなる前に、簡単な採血を行った」。

深い喪失に直面したとき、世界中の愛犬家が同じような選択に惹かれることは十分あり得る。だが、この問題には見過ごせない別の側面があると指摘するのが、『Digital Souls: A Philosophy of Online Death』の著者で哲学者のパトリック・ストークスだ。彼は、人間が「代替可能な存在」になりつつあることへの懸念を警告する。

人文学系メディアのSparksは最近、ストークスの懸念を引用し次のように書いた。「死者をボットとして生き永らえさせるべきかどうかという問題は、ストークスに言わせれば、社会が人間同士を軽んじ、あたかも“誰もがチャットボットのような存在”として扱い始める方向へ近づくことを意味する」。

同誌はまた、次のように続けている。「ストークスは “この技術が良い方向に使われ得ない、というわけではない”とすぐに付け加え、さらに “亡くなった親に対して心残りを抱える人にとっては、シミュレーションによる“対話”が心の区切りを与える可能性がある”とも述べている」。

死後データのライセンスとAIを介した遺産管理など、故人の再現を巡る新たな法的課題の可能性

ストークスが示した懸念は、故人のボットやその他のAIによる“模造人格”が突きつける倫理的な難題の、ほんの入口にすぎない。問題はさらに広がっている。近い将来、声や記憶を含む故人のデータを将来的にどのように利用し、あるいは収益化できるのかを生前に指定しておく「死後データのライセンス管理」といった、新たな法律分野が生まれる可能性がある。

また将来の弁護士は、AIが作成した遺言の執行や、AIを介した遺産管理を専門に扱うようになるかもしれない。さらに、本人の許可なく生成された「AIによる再現」をめぐり、遺族が受ける精神的被害や、肖像の不正利用から身を守るために弁護士が呼ばれるケースも考えられる。こうした知的財産に関する不測の事態から人々を保護する条項は、今後の契約書で一般的になっていくだろう。

「終わりがある人生」という前提の揺らぎ、AI指導者が死後も統治する未来はありえるか

しかし、法がこうした問題にどのような判断を下すにせよ、AIによって大切な人を“よみがえらせる”ことには、もう1つ忘れてはならない倫理上の課題がある。ここであらためて、先ほどの問い──「私たちは、生きている人とどう向き合うべきなのか」──を考える必要がある。

人類が記録を残してきた歴史を通じて、「人生には終わりがある」という前提は変わらず、人々はそれを当然のものとして受け入れてきた。古代にさかのぼれば、王国はしばしば血統を基準に厳格な継承ルールを定めていた。また、人間社会は(少なくともこれまでは)世代が移り変わるという疑いようのない前提の上に成り立ってきた。年長者が亡くなれば、若い世代がその後を継ぐという循環が当然とされてきた。

AIの登場によって、人類が疑いなく受け入れてきたこの前提を見直す必要が出てくるかもしれない。LLMを使えば、ある国の指導者の“統治”が、死後も終わらないという状況すら想像できる。国民がその統治を受け入れるかぎり、AIが毎年学習を重ね、永遠にそのリーダーが権力を保ち続けることも可能になる。

これは表面的にはあり得ない話のように思えるかもしれない。だが数年前まで、AIを使って亡き父を“復活”させたり、クローン化したペットを飼ったりできるとは誰も考えていなかった。同時に、アルバニアのようにAIの“閣僚”を導入し始めた国もある今となっては、昨日起きたことをもとに明日を予測するのはもはや安全ではない。

そして、この状況は、かつて君主制国家だったフランスで使われた「王は死んだ。国王万歳」というフレーズに、新たな恐ろしい意味を与えている。

forbes.com 原文

翻訳=上田裕資

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