レビューサイトで支持率100パーセント
作品にはブルース・スプリングスティーン本人とマネージャーのジョン・ランダウも企画当初から深く関わっている。脚本の開発に協力したり、キャスティングの相談に乗ったり、撮影現場にも足を運んだりして、真摯な意見が交わされたという。ブルース本人も監督のスコット・クーパーについて次のように語っている。
「彼の映画のトーンには、私がとても好きな生々しさがありました。それは、私が最も好きな映画の時代の1つである 1970 年代を彷彿とさせるものでした。スコットはこの作品が伝記映画ではなく、音楽を伴ったキャラクター主導のドラマであることも理解していました。彼は素敵な人物であり、素晴らしい監督であるだけでなく、この仕事に適任の人材だと感じました」
「スプリングスティーン 孤独のハイウェイ」では、過去のトラウマに悩む興味深い人間ドラマも描かれている。このあたりが映画レビューサイト「Rotten Tomatoes」で支持率100パーセント(9⽉2日時点)という数字を叩き出し、全⽶の有力メディアからも賞賛の声が寄せられている理由かもしれない。
前述したように、彼のファンならずとも、作品で語られるブルースの「真実」には観る者の心に深く突き刺さるものがあり、単なる「伝記映画」の領域を遥かに超えている。
とはいえ劇中の「音楽」についても蔑ろにされているわけではない。冒頭部分でいきなり主演のジェレミー・アレン・ホワイトによって歌われる 「明日なき暴走(Born to Run)」は本人映像かと見紛うほどのリアルな迫力に満ちており、彼によるパフォーマンスもこの作品の見どころ(or聴きどころ)かもしれない。
ちなみにジェレミーはそれまでバスルームや車の中以外では歌ったことはなかったそうで、5カ月にも及ぶトレーニングでブルース役を完璧なものにしたという。姿形も若い頃のブルースに似ているそうで、それもこの作品で主人公にキャスティングされた理由の1つだという。
それと、ささやかな見どころではあるが、ブルースが自宅に引き篭もってレコーディングする際の機器が、日本のメーカーTEACが発売していたカセットテープを使用した4トラックマルチトラックレコーダー「TEAC 144 PORTASTUDIO」なのだ。
高音質でコンパクト、個人でも手に入れやすかったこの機器は、音楽制作において新たな可能性を生み出し、「史上最も革命的な製品である」とも言われ、実際の「ネブラスカ」の録音でも使用されたものだった。
この例に漏れず、細部にまで行き届いた演出が「スプリングスティーン 孤独のハイウェイ」をさらにクオリティ高い作品へと押し上げている。濃密に展開される人間ドラマとも相まって、従来の「音楽映画」にはない観応えあるものとなっているのは当然なのかもしれない。


