映画

2025.11.14 17:15

「スプリングスティーン 孤独のハイウェイ」 苦悩するスーパースターの人間ドラマも描かれた「音楽映画」

ブルース・スプリングスティーンを演じるのはドラマ「一流シェフのファミリーレストラン」(2022年〜)でエミー賞主演男優賞受賞に輝いたジェレミー・アレン・ホワイト ©2025 20th Century Studios

ブルース・スプリングスティーンを演じるのはドラマ「一流シェフのファミリーレストラン」(2022年〜)でエミー賞主演男優賞受賞に輝いたジェレミー・アレン・ホワイト ©2025 20th Century Studios

クイーンのフレディ・マーキュリーの波乱の人生を描いた「ボヘミアン・ラプソディ」(2018年)が世界的大ヒットを記録したことをきっかけに、近年、数々の大物ミュージシャンを主人公とした映像作品がつくられてきた。

最近では、ノーベル文学賞にも輝いた伝説のアーティスト、ボブ・ディランのフォークソングの旗手としてデビューしてからロックへと舵を切っていく5年間を描いた「名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN」 (2024年)が耳に新しい。

今回紹介する「スプリングスティーン 孤独のハイウェイ」は、その邦題が示す通り「ボーン・イン・ザ・U.S.A. (Born in the U.S.A.)」でアメリカを代表するスーパースターとなったブルース・スプリングスティーンにスポットを当てた作品だ。

この作品は、これまでのアーティストの人気を背景とした「音楽映画」とはかなり趣を異にしている。対象となる人物の過去から説き起こして、その軌跡を振り返るというありきたりな伝記的作品ではない。

ブルース・スプリングスティーンが栄光を掴んだ後に陥った苦悩の時期にフォーカスを絞ってつくられた作品なのだ。その時期とは、ちょうど2枚組の大作「ザ・リバー」(1980年)が全米第1位に輝き、次作の意欲的アルバム「ネブラスカ」(1982年)に至る期間だ。

「ネブラスカ」は「ロックンロールの未来」と賞賛されたブルース・スプリングスティーンが、アコースティックギターとハーモニカに持ち替えて自宅録音したもので、この時期の彼の魂の彷徨が色濃く現れたアルバムだった。

本作では、この時期のブルースの複雑に絡み合う内面を実にきめ細かく物語化している。それだけにブルースの音楽に馴染みのない人間でも、心動かされる内容となっている。

ブルース本人も最初から関わった作品

1981年、ブルース・スプリングスティーン(ジェレミー・アレン・ホワイト)は、前年に発表したアルバム「ザ・リバー」の名を冠したツアーを終える。レコード会社としては、彼がスタジオに戻って、さらなるヒットアルバムを制作することを望んでいた。

ジェレミー・アレン・ホワイトの起用は若い頃のブルース・スプリングスティーン似ているということも理由の1つだったという ©2025 20th Century Studios
ジェレミー・アレン・ホワイトの起用は若い頃のブルース・スプリングスティーン似ているということも理由の1つだったという ©2025 20th Century Studios

しかし、ツアーを終えたばかりのスプリングスティーンにとって、スタジオは少しも気持ちが安らぐ場所ではなかった。彼はマネージャーのジョン・ランダウ(ジェレミー・ストロング)に故郷のニュージャージー州で家を探して欲しいと頼む。

マネージャーのジョン・ランダウ(ジェレミー・ストロング)はブルースの良き相談相手でありセラピストの役割も担っていた ©2025 20th Century Studios
マネージャーのジョン・ランダウ(ジェレミー・ストロング)はブルースの良き相談相手でありセラピストの役割も担っていた ©2025 20th Century Studios
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文=稲垣伸寿

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