企画展、芸術祭、フェア、オークションなど多彩な話題が飛び交うアートの世界。この連載では、毎月「数字」を切り口に知られざるアートな話をお届けしていく。直島を中心に世界的に知られる「ベネッセアートサイト直島」の新たな動きを聞いた。
99頭のオオカミが“ベルリンの壁”と同じ高さのガラスに向かっていく蔡國強の〈ヘッド・オン〉。「ずっと狙っていたので思い出深い作品です」。福武英明がそう話す大作を筆頭に、日本、中国、韓国、フィリピン、タイなどアジア出身の作家12組の新作や代表作を展示するのが、今春誕生した「直島新美術館」だ。35年以上にわたるベネッセアートサイト直島の活動の集大成として位置付けられている。
アジア美術への注力をひとつの特徴とするが、福武の話を聞くと、それは特別なことではなく自然な流れとわかる。
アジアの良い作家、良い作品に触れ、なぜこれまで欧米ばかりだったのか、と問い直した。物理的に近い地域にいる作家は、継続的に共創しやすいという魅力もある。「ほかにない取り組みとして自分たちでルールをつくってきた直島において、キュレーションや選定も既存のアートワールドと違うものがあってもいいのでは」と、あたためてきた思いを具現化した。
現在、ベネッセアートサイト直島の来場者は約半数が海外から。なぜわざわざ遠くから訪れるのか。福武は最近、音叉から気づきを得たという。「自分たちの活動を先鋭化すればするほど、音叉の共鳴のように、特定の周波数に響いていく。一般的には、プロモーションにより瞬間的に多くの人が来るということもありますが、共鳴によってより深く理解してくれる人に届けていくことが中長期的な価値を形成していく源になると思っています」。
