上場後の株価低迷を乗り越え、うつ病治療薬の承認で評価額は約4650億円へ
彼の見立ては正しかったが、2015年の上場後にAxsomeは苦戦した。創薬ベンチャーでは珍しいことではないが、新薬はアイデアから市場への投入までに10年かかることもあり、Axsomeの試験が一般より安いとはいえ、決して安価ではなかったからだ。同社の株価は長く10ドル(約1550円)未満に低迷し、痛み止め薬の初期候補が治験に失敗した際には、時価総額が1億ドル(約155億円)を割り込んだ。
「当時Axsomeを信じる人はほとんどいなかったし、今もなお懐疑的な人は多い。結果を示すしかないんだ」と、同社の最高財務責任者(CFO)のニック・ピジーは言う。
Axsomeの見通しが一変したのは、最初の大型薬Auvelityの投入だった。重度うつ病の治療薬であるこの薬が2022年8月にFDA承認を取得すると、株価は1週間で65%跳ね上がり、同社の評価額は30億ドル(約4650億円)に達した。Auvelityは既存薬2種を組み合わせたもので、作用が出るまで6〜8週間かかるセロトニン系抗うつ薬に比べ、1週間で効果が出始める点が大きな強みだ。
この新薬の販売開始にあたり、Axsomeは165人の営業担当を配置した。これは業界標準の半分以下だが、どの医師が製品に関心を示しやすいか、またメール・電話・対面のどのアプローチを好むかを分析するソフトウェアを組み合わせた営業活動を行った。その結果、今年のAuvelityの売上は5億ドル(約775億円)に達する見通しで、アナリストは同薬が「ブロックバスター」(年間売上10億ドル[約1550億円]超の薬)になると見ている。今年初めには特許訴訟が決着し、競合品の参入を少なくとも2038年まで防ぐことが確定し、大きな勝利となった。
金融の知見を生かし睡眠障害薬を買い取り、短期間で投資額を上回る利益を回収
タビトーが持つ金融業界の知見も事業に役立った。Axsomeは2022年、「Sunosi」と呼ばれるナルコレプシーや睡眠時無呼吸症候群の患者にみられる日中の過度な眠気を治療する薬を取得した。タビトーは2021年のクリスマス時期に、2週間で協議をまとめて5300万ドル(約82億円)と1桁台のロイヤリティでこの薬を買収した。そしてその翌年に、この薬の欧州・中東・北アフリカでの販売権を6600万ドル(約102億円)に加えてマイルストーンとロイヤリティで売却し、投資額を大きく上回る額を回収した。Sunosiの年間売上は現在1億ドル(約155億円)を超えている。みずほ証券のアナリスト、グレイグ・スヴァンナヴェイは「この取り引きは非常に抜け目のないものだった」と評価している。
次の新薬でアルツハイマー病に挑み、売上高約2.6兆円の企業を目指す
Axsomeの株価は、上昇を続けており、過去1年で35%上昇して直近では122ドル(約2万円)に到達。同期間の上昇率が1%にとどまったナスダック・バイオテック指数を大きく上回った。同社の次の注目薬は、アルツハイマー病に伴う激越症状(agitation)を治療する薬だ。この病気に現在利用可能な治療は抗精神病薬しかなく、死亡を含む重大なリスクが伴う。Axsomeの薬はこれらの副作用を回避できるものの、フェーズ3試験の結果はまちまちだった。同社は今後の承認申請を予定している。
FDAが承認しない可能性もあるが、アナリストは「抗精神病薬に代わる治療の必要性」から承認される可能性は高いと見ている。この薬は、タビトーがピーク時の売上165億ドル(約2.6兆円)に到達すると見積もる計画の中心をなす。彼は、Auvelityがピーク時に10億〜30億ドル(約1550億〜4650億円)、アルツハイマー病の激越症状の薬が15億〜30億ドル(約2325億〜4650億円)の年間売上を生み出すと予測している。
「当社の薬のポートフォリオと、支援できる患者数を見れば、まだ多くの展望が広がっている。現状の規模だけを考慮すれば小さな会社かもしれないが、事業の基盤や志の面では決して小さくない」とタビトーは語った。


