サイエンス

2025.11.14 09:00

原爆による長期的な人体への影響は一般の懸念より小さい 日米共同研究

広島の原爆ドーム(Siriwatthana Chankawee/Shutterstock)

広島の原爆ドーム(Siriwatthana Chankawee/Shutterstock)

第二次世界大戦後、人々は放射線への恐怖を抱いてきた。放射線被ばくとがんや先天性異常との関連性に関する仮説は、世界中で依然として広く信じられている。だが、この恐怖の根強い源には耳を傾けるべき物語がある。

広島と長崎への原爆投下から80年近く経った今も、目もくらむような閃光(せんこう)、舞い上がるきのこ雲、灰と化した都市といった光景は人々の記憶に刻まれている。計り知れないほどの苦しみは即座に訪れた。わずか数秒で数万人が命を落とし、その後数日間でさらに多くの人が死亡した。しかしその裏では、放射線に被ばくしながらも死に至らなかった数十万人もの人々がいた。

こうした人たちの将来は、医学上の未知の課題となった。科学者らは放射線、特に高レベルのガンマ線と中性子が白血病や先天性異常、遺伝性疾患の発生を誘発するのではないかと懸念していた。一方、文化的な想像の世界では、放射線はがんや奇形、死と結び付けられた。

だが、数十年が経過するにつれ、慎重かつ持続的な研究により、異なる現実が明らかになった。約12万3000人の被爆生存者が被爆都市周辺地域での生活を続けながら、生涯にわたる大規模な研究(LSS)への参加に同意した。この研究では、生存者本人と子孫の健康状態を追跡調査している。調査では、生存者を単なるデータ点としてではなく、異常な歴史的状況下で通常の人間生活を確立した人々として追跡した。

日米の研究者によって実施されているLSSは、現在も続いている。資金は日本政府と米エネルギー省が負担し、米科学アカデミーが研究を指導している。これにより、放射線被ばくが人体に及ぼす影響について、これまでに収集された中で最も包括的なデータが得られた。これはこのような被ばくに伴う真の危険性を理解する上で重要な科学的基盤となる。

放射線被ばくの長期的な影響はかつての認識よりはるかに小さい

研究者らは最近、LSSのデータを新たに分析し、特に2度の爆撃によるがん死亡者数を特定した。放射線被ばくに関する他の長期研究と一致しているとはいえ、この発見には多くの人々、恐らくは関連分野以外の科学者たちでさえも驚愕(きょうがく)するのではないだろうか。

研究結果から、放射線は生存者のがん発症リスクを確かに高めたが、その増加幅は小さいことが分かった。実際、生存者全体の死亡者数の約1~2%が放射線誘発性がんによるものだった。

最初に明らかな増加を示したのは白血病だ。爆撃から約2年後に症例が現れ始め、約10年後にピークを迎えた後、減少傾向に転じた。放射線被ばくにより、主要な生存者群で白血病による死亡が推定160件発生した。

一方、固形がん(肺、胃、乳房など臓器の腫瘍)は進行が遅いことを反映し、かなり後になってから現れた。1950~2003年までの期間で、放射線被ばくに関連した固形がんによる死亡が約500件増加した。生存者の生涯を通じて推計すると、総数は約1500件に増加する。

この数字は現実の苦しみを表しているが、物事を客観的に捉える視点も与えている。同じ集団で、放射線とは無関係のがんで死亡した人は1万人以上に上った。1940年以降の日本の固形がんによる死亡率の研究では、喫煙と食生活に関連する危険因子によって大幅な上昇がみられることが明らかになっている。

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翻訳・編集=安藤清香

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