ビジネス

2025.11.14 15:15

サステナビリティ関連の取り組みは本当に「財務」に効くのか?

VectorMine / Shutterstock.com

VectorMine / Shutterstock.com

上場企業を中心に、非財務情報開示の流れが進んでいる。金融庁は2025年7月、時価総額3兆円以上の東証プライム上場企業には27年3月期から国際基準に準拠したサステナビリティ情報の開示を義務付けると発表した。

advertisement

一方で、「ESGやサステナビリティ関連の取り組みが、自社にどんな利益をもたらすのか」と疑問視しているビジネスパーソンは少なくない。筆者も、上場企業でリーダーを目指す人たちが「サステナビリティ関連の取り組みは企業にとって負担でしかない」と話すのを何度も耳にしている。

国内大手企業を中心に財務・非財務データの分析や可視化を支援するサステナブル・ラボ代表取締役CEOの平瀬錬司は、「ESGやサステナビリティに取り組む企業が増えるなか、自社の取り組みが財務的・社会的に意味を持つと実証することが不可欠になった」と指摘する。

「日本企業は真面目なので、女性比率は高いほうがいい、脱炭素の取り組みは進んでいるほうがいい、取締役の多様性はあったほうがいいなど、分かりやすい物差しに飛びつきがちだ。しかし、これら取り組みが企業の財務や社会にプラスの影響を与えていると示すことができなければ、それらは単なる『自己満足のジェスチャー』で終わってしまう」(平瀬)。

advertisement

上場企業は、株主から資金を預かる立場にある。サステナビリティ関連の施策に多額のコストを投じながら財務に与える影響が不明確なら、資本のムダ遣いとみなされかねない。ESG投資に詳しい京都先端科学大学国際学術研究院教授の加藤康之は、「投資家の視点は一貫して投資リターンの最大化にある。企業には、社会的リターンが投資リターンにつながるのだと証明することが求められる」と警鐘を鳴らす。

例えば、植林活動自体は社会にいいことだとしても、それが自社のブランド価値や経営、財務にポジティブな影響をもたらさない限り、投資家は関心を示さない。企業は「ESGやサステナビリティ関連の施策→従業員や顧客満足度、ブランド価値の向上→収益増」といった「ポジティブな連鎖」をデータで示す必要があるのだ。

「反ESG運動の台頭などを受けて、ヨーロッパではESGの潮流が『理念』から『実証』へと転換している」と加藤は言う。今、必要なのは「社会性と事業性の両立について、エビデンスベースで語ること」だ。

人的資本の向上が財務にプラスの影響をもたらす

サステナブル・ラボは自社が開発・提供する非財務データ分析プラットフォーム「TERRAST」のデータセットとAIを用いて、非財務関連の施策が財務に与える影響の可視化に取り組んでいる。例えば、5年前の女性管理職比率と現在のROIC(投下資本利益率)の関連性を、市場動向といった外部変数を統制しながら分析する。単なる相関分析ではなく、時間差を考慮した予測精度の高いモデルを構築することで、施策が中期的に財務インパクトにどうつながったかを推定する。

次ページ > 人的資本が財務に与える影響要因の中核を占めている

文/瀬戸久美子

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事