2025.11.21 14:15

ド級「1名600万円」の美食旅、世界のウルトラ富裕層はなぜ日本で食べたがるのか

AdobeStock

AdobeStock

日本人の9割は知らない 世界の富裕層は日本で何を食べているのか? ガストロノミーツーリズム最前線』(ダイヤモンド社刊)が刊行後たちまち重版と売れに売れている。著者は「食べログ」フォロワー数約53000人の食通、文藝春秋で「文春マルシェ」チーフプロデューサーも務めた柏原光太郎氏だ。

NHK「クローズアップ現代」「所さん!事件ですよ」のガストロノミーツーリズム特集にも出演するガストロノミープロデューサーでもある氏に以下、Forbes JAPAN書き下ろしでご寄稿いただいた(本稿に関連する同書の該当節、68−69ページ「ランチに150万円! ヘリで行く離島の超高級寿司フレンチ」もぜひ参照されたい)。


「インバウンド富裕層」、定義は「一回の旅行でひとり100万円以上使う人」

昨年、日本にはインバウンド(訪日外国人旅行者)が約3700万人訪れ、国内で8兆1000億円消費しました。彼らの消費額は統計上「輸出額」に数えられるのですが、昨年の日本の輸出額では自動車に次ぐ第2位。いまやインバウンドは日本に欠かせない「産業」となっているのです。

今年は4000万人超えは確実、消費額も10兆円を超えるかどうかの攻防ではないかといわれています。インバウンドを日本に呼び寄せる「観光立国戦略」がますます欠かせなくなっているわけです。

日本政府は2030年までに「インバウンド6000万人、消費額15兆円」を目標としているなど積極的ですが、そのためにもインバウンド富裕層に来日してもらう施策を練っています。政府の定義するインバウンド富裕層は、一回の旅行でひとり100万円以上使う人を指します。インバウンドの平均が約22万円ですから4倍以上であり、たしかにお金持ちではあるかもしれませんが、いま日本を訪れている富裕層はそんなものではありません。

富裕層向けオーダーメイド旅行、最多オーダーは「ひとり600万円の旅」

私の知り合いにインバウンド富裕層向けオーダーメイド旅行社を経営している方がいますが、彼によると昨年の旅行で一番多かったオーダーはひとり600万円の旅だったそうです。私の周囲でも、たとえば10日間ほどでひとり200万円くらい使って帰るインバウンドは相当数にのぼっています。

私がスタジオ出演した2024年12月に放送されたNHK『所さん!事件ですよ年末SP』では、ランチに150万円使う外国人と日本人の夫婦が紹介されました。しかも、店があるのは六本木や銀座などの都心ではなく、三重県なのです。

三重県といえば一見勝之知事がインバウンド富裕層を県に誘客したいと積極的にインバウンドによるガストロノミーツーリズムを打ち出していることで知られています。もともと世界でも有名なラグジュアリーホテルグループである「アマン」があり、志摩観光ホテルなど日本資本の高級ホテルも知られている三重県ですが、今回の舞台である伊勢志摩の離島にある寿司屋「SUSHI YUTAKA ZEN」のランチは、1日1組限定で完全予約制。メインの寿司は旬の地魚8貫で、落ちハモの吸い物や伊勢海老などの味噌汁もつきます。

「でも、それで150万!?」と驚かれると思いますが、その値段になるには理由がありました。というのは、この寿司屋にはヘリポートが併設されており、東京から離島までのヘリのチャーター代金140万円が含まれているからです。

いまの富裕層は、かつてのようにお金をかけてゴージャスな旅をするよりも、簡単には人が行けない場所に、誰よりも早く行って体験することに価値を置いています。なので140万円かかろうとも、アクセス困難な場所へ赴くことができ、しかも時短になり、非日常性も味わえるのであれば、喜んでお金を払うのです。実際、この寿司屋には年間約70組の世界の富裕層がヘリで訪れているそうです。

1人185万円から。「ホンダジェット」、東京→地方のプライベートジェットツアー

彼らにとってはこういう旅は当たり前のことなのです。海外に例をとれば、北欧の奥地、氷山が迫る人口50人程度の小さな村にある星付きレストランのシェフが開いた店「コックス」には世界中から富裕層が押し寄せています。もちろんここも、最寄りの都市からボートまたはヘリコプターでしか行くことができません。

昨年からはホンダの関連会社「ホンダジェット」が東京と地方を結ぶプライベートジェットツアーを始めています。

初回は東京ー富山でした(2泊3日でひとり160万円〜)し、この11月からは大分を結び、ミシュラン掲載の湯布院の高級ホテル「ENOWA YUFUIN」でチベット人シェフの作るイノベーティブな料理を味わうプランも発売されています(2泊3日の行程で1人185万円〜)。

また全室テラス付きのスイートで瀬戸内海を遊覧、食事はお好きなものをお好きなだけというコンセプトの高級クルーズ船「ガンツウ」はふたりで2泊3日150万円程度ですが、予約困難なほど人気があります。

豪華寝台列車で行く旅を展開しているJR九州「ななつ星」、JR東日本「トランスイート四季島」もやはり、食を重視していることや価格帯は似ています。

東京駅の真ん前にオープン予定のラグジュアリーホテル、一泊のお値段は?

東京の話題をとると、2028年には東京駅の真ん前に日本一の高さの商業ビル「トーチタワー」が出来ますが、その最上階部分にはイギリスのラグジュアリーホテル「ドーチェスターコレクション」が入る予定です。

全容はまだ発表されていませんが、一泊20〜30万円以上する八重洲のブルガリホテルや丸の内のアマン東京を上回る価格になるといわれています。

高級ホテルを何軒も経営している私の知り合いによると、最近のインバウンド富裕層は、日本で滞在する宿をまず一か所決め、そこから北海道であろうと九州であろうと出かけるため、移動する場合は二重に宿泊代を払うことも当たり前。それで利便性を確保できるなら、そのほうがメリットがあると考えている、と聞きました。

インバウンドたちに日本を訪れる理由を聞くと、そのトップは「食事がおいしいから」です。しかも日本は地方に美食があふれていることがいまや、世界中のフーディー達には知られています。

プライベートジェットやヘリを駆使して、インバウンドが日本中の美食を食べ歩く世界がすでに現れつつあるのです。

柏原光太郎(かしわばら・こうたろう)◎ガストロノミープロデューサー。業界きっての食通として知られ、「食べログ」のフォロワー数は約53000人。文藝春秋で「週刊文春」「文藝春秋」編集部、文春文庫部長等を経て「文春オンライン」を立ち上げ、「文春マルシェ」チーフプロデューサーを経て独立。「一般社団法人日本ガストロノミー協会」会長、「食の熱中小学校」校長、農林水産省「Let’s!和ごはんプロジェクトの見直しに関する懇談会」委員、北九州市参与(食の魅力戦略担当)、Luxury Japan Award 2025選考委員、美食都市アワード審査員。NHK「クローズアップ現代」「所さん!事件ですよ」のガストロノミーツーリズム特集にも出演。著書に『ニッポン美食立国論』(講談社)、『東京いい店はやる店』(新潮新書)がある。

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事