経営・戦略

2025.11.15 15:00

年商1.5兆円を目指す冷凍食品大手リッチ・プロダクツ、家業と地元を守り抜く覚悟

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1945年に冷凍デザート用ホイップトッピングで創業した米食品大手リッチ・プロダクツは、ニューヨーク州バッファローを拠点とする非上場のファミリービジネス企業だ。スーパーマーケットや外食チェーンなど法人向けに冷凍食品を供給するB2B企業で、現在の年商は58億ドル(約8932億円。1ドル=154円換算)に達する。規模は巨大だが、一般の消費者に社名が知られる機会は少ない。

創業者ボブ・リッチ・シニアは1973年、NFLバッファロー・ビルズの本拠地スタジアムの命名権を150万ドル(約2億3000万円)で購入し、企業名をスタジアム名に冠した世界初の例を作った。現在ではスポーツビジネスで一般的になったスタジアム命名権ビジネスの草分けとされる決断だった。同スタジアムが今季限りで取り壊されるなか、84歳の2代目ボブ・リッチ・ジュニアは、巨額の買収提案を退けながら家業を売らずに守り、長年バッファローの地にとどまり続けてきた理由を明かす。

買収提案を退ける冷凍食品帝国、非公開ファミリービジネスの覚悟

食品大手リッチ・プロダクツ創業者の息子で現会長のボブ・リッチ・ジュニアは、買収の申し出を受けるたびに、あらかじめ用意した定型文を秘書に送らせている。丁寧な文面で綴られたその手紙の末尾には「リッチ・プロダクツは売り物ではありません」と書かれている。

秘書が誰からの申し出なのかを知りたいかと尋ねても、リッチは興味を示さない。「まったく関心がないんだ」と84歳のビリオネアは笑う。「私たちにとって最も大切なのは、永遠に非公開企業として存続することだ」と、68歳の彼の妻で、リッチ・プロダクツと取締役会の会長を務めるミンディ・リッチが付け加えた。

ボブ・リッチ・ジュニアと妻のミンディ・リッチ(Photo by John Nacion/Getty Images)
ボブ・リッチ・ジュニアと妻のミンディ・リッチ(Photo by John Nacion/Getty Images)

リッチが掲げる最も重要な指針は、意思決定の自由を保ち、より迅速に前進するために、「事業を完全な家族所有のまま維持していくこと」という。父親のボブ・シニアは1945年、世界初の植物性ホイップクリームを開発した。これは、より知られる乳製品系の『Reddi-Wip(レディウィップ)』が発売される3年前のことだった。

そして現在、リッチ・プロダクツの主力商品であるホイップトッピングは100カ国以上で販売されている。フォーブスが70億ドル(約1.1兆円)超と評価する同社は、食品スーパーで販売されるクッキーや、コーヒーショップで提供されるコールドフォーム、個人経営およびチェーンのピザ店向けのピザ生地、「SeaPak」ブランドの冷凍シーフード、「Carvel」のアイスクリームケーキなど、多岐にわたる製品群を抱える食品コングロマリットに成長した。主要取引先にはウォルマート、クローガー、ダンキン、パブリックス、ソデクソなどが名を連ねる。

「私たちの成長は、指数関数的でも一直線でもない。あくまで1歩ずつだ」とボブ・ジュニアは語る。フォーブスは、彼の事業持分とその他の投資をもとに、その資産を65億ドル(約1兆円)と推定している。

人手不足と健康志向に対応する新商品で、年商約1.5兆円を目指す

同社は2030年までに年商を100億ドル(約1.5兆円)へ拡大することを目標としている。その実現には、外食産業や卸売業者が直面する人手不足を緩和する「革新的」な新商品を開発する計画が含まれている。トランプ政権第2期およびロバート・F・ケネディ・ジュニア厚生長官が掲げる健康・食品政策「MAHA(Make America Healthy Again)」に合わせて、一部人気商品のレシピや原材料の配合も見直す。

NFLスタジアム命名権を取得、バッファロー発ブランドの存在感を高める

一方、リッチ・プロダクツには、もう1つの大きな変化が迫っている。今季のNFL終了後、バッファロー・ビルズの本拠地スタジアムが取り壊されるのだ。1973年、ボブ・シニアが150万ドル(約2.3億円)を支払い、25年間の命名権契約を結んだことで、このスタジアムは世界で初めて企業に命名権が売却された施設となった。しかも、当時入札したのは彼だけだった。同スタジアムは、1997年までリッチ家の名前を冠し、その後は2015年まで、チーム創設者のラルフ・ウィルソンの名を掲げていた。

「現在では世界中の約500のスタジアムが命名権を売っているが、あの当時はクレイジーな決断だった。でも、悪くなかった」と、ボブ・ジュニアは笑みを浮かべた。

熱心なビルズファンでもあるボブとミンディ夫妻は、新スタジアムの誕生に胸を躍らせている。同時に、創業から80年を迎えるリッチ・プロダクツの新たな歩みにも期待を寄せている。「先日は “We still call it Rich Stadium(私たちは今でもリッチ・スタジアムと呼んでる)”と書かれたシャツを着て歩いている人を見かけて、思わず笑ってしまった。あのスタジアムは、私たちにとっても、みんなにとっても誇りなんだ」とボブは語る。

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翻訳=上田裕資

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