食&酒

2025.11.29 13:15

浅草のファインダイニング「オマージュ」、荒井シェフの究極の目標

レストラン「オマージュ」の一皿

レストラン「オマージュ」の一皿

ミシュラン二つ星、ゴ・エ・ミヨでもトック(コック帽のマーク)3つの16/20という高得点を取得し、アジアのベストレストランでは78位にランクイン。押しも押されもせぬ東京のファインダイニング「オマージュ」。今では6〜7割がインバウンドのゲストで埋まる日も少なくないという。

浅草という立地がこの人気を後押ししていることは確かだが、その中心にあるのはゆるぎない実力だ。ショートカットに紬の着物がよく似合うマダムの凛としたサービスもその象徴といえそうだ。

オーナーシェフの荒井昇氏は、いわば叩き上げ。出発点は決して華やかなものではない。都内数店で修業したのち、フランスで1年間スタジエとして修業を積み、帰国後は開店資金を貯めるために築地の仲卸で1年アルバイトをした。

念願叶って25年前、26歳で地元浅草にビストロを開いた。店名の「オマージュ」は、フランス語で感謝という意味。カジュアルな価格帯でとびきり美味しい料理が食べられる店としておおいに人気を博した。

オーナーシェフの荒井昇氏
「オマージュ」オーナーシェフの荒井昇氏

ところが、そうしたカジュアルな業態から、突如ファインダイニングへと舵を切った。その理由を語るに、荒井氏は「2011年の東日本大震災で日本中が自粛ムードになっていたときに、改めて自分の生き方を考えました」と切り出した。

「店を始めた当初は5000円前後の店が世の中を席巻していて、自分もその流れにのっていたわけですが、どこかで限界を感じていました。だったら単価を上げて、仕入れる材料のグレードを上げて、本当に美味しい料理を作ろう。心から作りたいものを表現しようと決めたんです」

そして2011年の4月、店はファインダイニングへと生まれ変わった。コースには、季節感を大切にし、丁寧に作られた皿の数々が並ぶ。イノベーティブではあるけれど、クラシックの余韻を残す。口にした人誰もが素直に美味しいと感じる潔い構成だ。

「喩えていえば、私の料理は“時間軸を大切にして合体させた料理”なんです」と荒井氏は言う。

つまり、1970年代から現在まで、10年刻みで進化してきたフランス料理の流れを一皿に凝縮させる。例えば、ビシソワーズという誰もが知るクラシックなスープにしても、そこに、“時代を超えたエッセンス”を加える。初めて口にする人には親しみを、食べなれた人には驚きを。懐かしさと新しさが同居する、まさに時間を編み込む料理だ。

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