スーパーボウルや五輪を視聴できない消費者
この構図の中で、消費者はどんな立場に置かれているのか? ケーブルや衛星放送、通信会社による巨大バンドルが支配していた時代と比べれば、いまは選択肢が格段に増えたため、状況は良くなったと思うかもしれない。しかし実際には、地上波局やケーブル局をある程度まとめて視聴したいと思う消費者にとって、現状は決して楽ではない。
ケーブル契約を解約した「コードカッター」たちは、もう肥大化した旧来の詰め合わせの「バンドル契約」に戻る気はない。一方で、「ミニバンドル型」の配信サービスを利用すれば、ニューヨークやロサンゼルスのような大都市圏の顧客は、地元局を視聴できることが多いが、それ以外の地域では必ずしもそうはいかない。
その結果、数百万人の視聴者がスーパーボウルやワールドシリーズ、アカデミー賞、オリンピック、グラミー賞といった大型イベントを視聴できなくなる。
ストリーミングは「代替策」になるか?
そのような状況下で代替策として期待されるのが、ストリーミングだ。スポーツファンにとって、「Fubo TV」は一見魅力的に見える。しかしこのサービスでは、ワーナー・ブラザース・ディスカバリー系のネットワークが視聴できないため、NCAAトーナメントやMLBプレーオフの一部が見られず、CNNも含まれていない。「Philo」は料金が安いが、地上波局も主要なスポーツ専門チャンネルも扱っていない。Fubo TVと同じくディズニー傘下のHulu Live TVは一部のABC局を視聴できるものの、他の多くのストリーミングサービスと同様に、地上波局の配信範囲は限られている。
つまりこれらのサービスは、地上波テレビの未来に何の助けにもならない。ディズニーは現在、ESPNアプリに全力を注いでいる。このアプリは8月のサービス開始以来すでに200万人以上の加入者を獲得しており、YouTube TVとの対立がどの程度スポーツファンをこのアプリに引き寄せるのか──単体契約としてか、あるいはディズニーの配信バンドルの一部としてか──その動向が注目される。
ディズニーは現在、ESPNやHulu(Hulu Live TVを除く)、Disney+の3サービスをまとめたバンドルを12カ月間29.99ドル(約4620円)という、ESPN単体の通常料金と同額のディスカウント価格で提供している。最近「Fox One」アプリを立ち上げたフォックスも、この結果を注意深く見守っている。同社も今後、自社コンテンツの配信権をめぐる激しい交渉を控えているからだ。
そして消費者たちはいま、メディアの未来が細切れに再編されていくのをただ眺め、苛立ちながら見守るしかない。


