米ディズニーと有料テレビサービス「YouTube TV」の番組配信料をめぐる交渉が決裂し、ディズニーはスポーツ専門局ESPNやディズニーチャンネルなどを含む傘下のABCの地上波放送や自社のネットワークを、YouTube TVで視聴できなくした。
この争いは、一見すると「いずれ昔のように丸く収まる」と思いたくなるが、いまのメディア業界は、かつての時代とは別物だ。今回のディズニーとYouTube TVの対立は、メディアの再編が急速に進み、地域メディアが衰退し、巨大テック企業が台頭した構図を鮮明に示している。放送権をめぐる争いがすぐに解決する時代は、もう二度と訪れないかもしれない。
かつては、メディア業界のコンテンツ提供者と配信業者は共存関係にあった。「コンテンツが王」なら、「配信は王子」だった。
ケーブルテレビや衛星放送、通信会社が手がけるマルチチャンネル配信(MVPD)は、番組制作者と配信業者の双方に「二重の収益源」をもたらすことで成長した。視聴者は月額料金を払い、広告主はより高額で広告枠を買い続けた。
だがいま、この旧来のモデルが瀕死の状態にあることは明らかだ。ネットフリックスやアマゾン、YouTube、TikTok、そしてゲームなど、消費者が選べるコンテンツが爆発的に増えたことで、2つの収益源はどちらも大きな圧力にさらされている。ライブスポーツを除けば、視聴率が伸びている番組はほとんど存在しない。
2013年には1億世帯を超えていた従来型のケーブル契約世帯数は、いまや5000万世帯強にまで減少した。さらに、YouTube TVやHulu Live TVといった「仮想MVPD」の運営元も視聴者も、見ないチャンネルや名前すら知らないチャンネルに月額費用を支払う気はない。主要なスポーツ番組を除けば、どの番組も視聴率が急落している。そして今では、広告市場の成長分のほぼすべてを、巨大テック企業が奪っている。
つまり、かつてのように拡大を続けてきたパイを分け合う時代とは違い、いまは縮小するパイをどう分けるかという、はるかに厳しい交渉を迫られている。問題は、誰が最大の痛手を被るかだ。
過去30年間に起きた多くの放送権争いは、将来の成長分の分配で解決してきた。しかし、これからはそうはいかないかもしれない。より厳しい選択が待ち受けている。
「中央集権化」が進むメディア業界
1990年代に放送局とマルチチャンネル配信事業者(MVPD)との間で起きた大規模な番組配信契約をめぐる争いでは、視聴者が地元局やお気に入りの番組を見られなくなると、世論の反発が高まり、政治的な圧力が両者に妥協を促すのが常だった。しかし、かつて米下院議長ティップ・オニールが残した「すべての政治はローカルである」という言葉は、いまや巨大メディアや巨大テック企業の世界では通用しない。



