アジア

2025.11.22 15:00

インドならでは文化が市場の成長を牽引、地元の「婚礼用ジュエリー」店で財を築いた富豪

インド・ムンバイのカリヤン・ジュエラーズの店舗のショーケース(Photo by Indranil Aditya/NurPhoto via Getty Images)

インド・ムンバイのカリヤン・ジュエラーズの店舗のショーケース(Photo by Indranil Aditya/NurPhoto via Getty Images)

インドの富豪T.S. カリヤナラマン(78)は、自らのジュエリー事業を文字通り「金のなる木」に変えた人物だ。金相場が高騰する今、彼が創業した「カリヤン・ジュエラーズ・インディア」は、価格に敏感な顧客への対応という新たな課題を抱えながら、大規模な拡張路線を進めている。

金をこよなく愛するインド、富裕層から一般客まで活況呈する旗艦店

南部の都市チェンナイの賑やかな通り沿いにある「カリヤン・ジュエラーズ・インディア」の旗艦店(延べ床面積1860平方メートル)には、平日の午後にもかかわらず、30代のカップルから米国在住のインド人旅行者までを含む多くの客でにぎわっていた。

店員たちは熱心に接客し、壁一面に並ぶ金のネックレスや、カウンターに並ぶバングル、イヤリング、指輪の中から、客の目に留まったものを丁寧に試着させていた。価格帯は、シンプルな金の指輪が200ドル(約3万1000円。1ドル=157円換算)未満からで、ダイヤモンドやルビー、エメラルドをあしらった豪華な婚礼用ジュエリーは高いもので6万ドル(約942万円)。鍵付きのガラスケースの中には、12万ドル(約1900万円)に及ぶ品も並んでいる。

モルガン・スタンレーの推計によると、金をこよなく愛するインドでは、一般家庭が保有する金の総量が3万4600トンにおよび、その価値は約3.8兆ドル(約596.6兆円)に達するという。カリヤンは、そのインド市場の売上高ベースで上場ジュエリー小売業者の第2位を占めている。しかも、ここ数年、同社の業績は絶好調だ。

インド・ムンバイのカリヤン・ジュエラーズの店舗(Photo by Indranil Aditya/NurPhoto via Getty Images)
インド・ムンバイのカリヤン・ジュエラーズの店舗(Photo by Indranil Aditya/NurPhoto via Getty Images)

金価格高騰の逆風下でも最高益、売上高と純利益を伸ばし続ける

売上高は過去5年間で倍増し、2505億ルピー(約4384億円。1ルピー=1.75円換算)に拡大し、純利益も5倍の71億ルピー(約124億円)に伸びた。しかもこれは、トランプ米大統領が米国の輸入品に大幅な関税を課したことで、「安全資産」とされる金の価格が10月初旬に1オンスあたり過去最高の4000ドル(約63万円)に達する前のデータだ。

この金価格の高騰はジュエリーの価格を押し上げており、カリヤンのような小売業者には、顧客の購入意欲を高める工夫が求められている。

カリヤン・ジュエラーズの創業者でマネジングディレクターを務めるT.S. カリヤナラマンは、この状況に動じていない。「成長に終わりなどない」と、純資産が31億ドル(約4867億円)のビリオネアの彼は言う。彼が取材に応じた同社の本社は、寺院と金細工職人、そして金取引で知られるインド南西部のケーララ州トリシュールに置かれている。

カリヤナラマンは、執行取締役の息子ラジェシュ(50)とラメシュ(48)の助けを借りてカリヤン・ジュエラーズをインド国内に約400店、中東と米国に40店を構える規模に拡大した。金価格が高騰するなか、同社は、より手頃な価格の製品ラインを拡充し、価格を重視する顧客層に対応しているとアナリストは述べている。

同社が市場の変化にすばやく対応できる理由は、ムンバイに社内デザインチームを置き、国内各地に約900の委託製造業者を抱えているためだ。「こうした取り組みが、価格高騰の影響を和らげている」と、ムンバイに拠点を置くICICIセキュリティーズのリサーチ責任者マノジ・メノンは語る。同社は、カリヤンの売上高と純利益が今後2年間で年平均それぞれ28%と38%のペースで伸びると予測している。

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翻訳=上田裕資

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